第64話 谷間に橋をかけよう
工房で道路の整備状況を打ち合わせていたとき、カーペンターはふと思い出したみたいで、谷間のせいで苦労している集落の話をした。
「主な街道の途中ではありませんから道路工事の問題じゃないんですが、ノーザンフォードの郊外に迂回しないと通れない谷があるんです」
「谷の反対側に行くには遠回りしなきゃいけなくて、近くの集落の人たちは苦労しているようでした」
「そうなんだ。どのあたりなんだい?」
オリヴァーはテーブルの上の地図を指さして「このあたりです」と言った。
「ここからそんなに遠くない場所だね。何とかしてあげられるといいな。時間のあるときに一度見に行ってみるよ」
「それでは辺境伯閣下に、必要があれば工房で橋をかけることの了解を頂いておきますね」
「オリヴァーの言うとおり、父上の了解は必要だね。説明はお願いしていいかな」
工房の代表にしてもらって、かなり好きなようにさせてもらっているけれど、領内で勝手に工事をするわけにはいかない。
数日後、ちょうど半日くらい時間が空いたので、テオと一緒に現地に行ってみた。
実際に見てみると、確かに谷のせいで街道に出るのが大変になっている。
そこまで深い谷ではないけれど、谷の底を川が流れているので渡れそうにない。
「これは確かに不便そうですね。対岸と行き来するにはかなり上流まで行かないとといけません」
護衛についてきてくれたオフィーリアは足が速くて目もいいので、あっという間に上流の様子を見に行ってくれたようだ。
よし、ここに橋をかけよう。
このところまた魔力量が増えているから、対岸まで届く橋を生産スキルで架けられると思う。
工房に行って材木を取ってくる。
橋づくりに使う魔力を温存できるよう、テオが半分収納してくれた。
「僕はこれで一杯一杯なのに師匠は随分余裕がありますね。やはりまだまだ修行が足りません」
収納魔法の収納力は魔力に比例する。
僕の魔力量はもともと多かったし、世界樹に救世主に認定?されてからさらに増えて、今ではちょっとおかしな量になっている。
でも、周りにいる工房のスタッフを見ると、テオが次々に収納することに呆れていたから、もうテオも人外の域に足を踏み込んでいると思うよ。
現地に戻ると、どこから話が広まったのか、近くの住民たちが集まっていた。
「あれは領主様の次男のウィリアム様じゃないか」
「うわ、ずいぶんたくさんの材木を収納しておられるんだな。ウィリアム様の隣りの子の収納量も凄いね」
「あの材木で何を作るんだろう。砦でも作るんかな」
「いや、領境でもないのに砦はいらんじゃろ」
いろんな声が聞こえてくるけれど、ここは聞き流して集中しよう。
対岸まで渡れる木製の橋をイメージする
太い橋桁に支えられ、両岸からは木材が斜めに支える形にしよう。
荷車を曳いて渡っても大丈夫な頑丈な橋、風雨に耐え、多くの人が安心して渡れるような橋をかけたい。
そうしてイメージを固めて生産スキルを発動すると、身体の奥からごっそりと魔力をもっていかれた感じがして、魔法陣が浮かんだ。
温かい光が消えると、そこには立派な橋がかかっていた。
「おお、橋じゃ!」
「あっという間にこんな立派なものが。奇跡だ」
「ウィリアム様、バンザーイ!」
周りで見ていた住民たちが盛り上がっている。
住民の中から一人の老人が出てきた。
「このあたりの村の村長でございます。ウィリアム様にはこのような立派な橋をかけて頂き、大変ありがとうございます」
「この橋が村の皆さんの役に立つと嬉しく思います」
「それはもう、役に立つどころの話ではございません。この村は近くの町に物を売るにも買うにも谷を迂回しなければならず、しかも上流の浅瀬も大きな荷物を渡すのは大変でした」
そうか、これまで大変だったんだな。
「これからはこの橋を通っていけば町はすぐですし、大きな荷物を持って渡ることもできそうです。何と御礼を申し上げればよいか」
村長さんの目は潤んでいた。
村人たちの歓声に送られて、僕らはノーザンフォードに戻った。
生産スキルで領民の暮らしが良くなるのは嬉しいな。
後日、父上に報告すると「橋をかけることもできるようになったんだね。普通に工事をすると時間も人手もかかるんだよ」と感心したような呆れたような感じだった。
ただ、領内に橋をかけたい場所はいくつもあるみたいだった。
「橋をかけてくれると有難い場所は結構あるんだよ」
「ふふ、あちこちに橋をかけるのであれば、報酬の話をさせて頂きます」
オリヴァー、父上にはお手柔らかにね。
それから報告のついでに、父上にポムテのレシピをいくつか説明して、北のシェフィールド公爵家に伝えてほしいとお願いした。
以前、公子ルークの求めに応じてポムテを売ることにしたけれど、アルビオン王国では芋を食べる習慣がないから領民が怯むのが心配な点だった。
そこで簡単なレシピとして、フライドポムテとポムテサラダ、ポムテバターを作ったんだ。
といっても僕が作ったんじゃなくて、工房のカフェを運営してくれているベイカーさんがレシピを作ってくれた。
ベイカーさんはオリヴァーがレバント商会から招いたスタッフの一人だ。ちなみに実家はパン屋さんらしい。誰かさんのネーミングは安直だな。
前世の記憶に基づく僕のアバウトな説明でも、しっかりしたレシピを作ってくれたベイカーさんは優秀なスタッフだ。こんな優秀な人を連れてきてくれたオリヴァーに感謝だ。
新作の短編「小人の宝石工房」を書きました(https://ncode.syosetu.com/n4565ln/)。
両親を亡くした少女が小人たちに形見の指輪の修理を依頼するという話です。主人公は最初は苦労しますが、ハッピーエンドです。少し淡くて温かいストーリーを目指しました。もし良かったら、読んでみてください。




