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【書籍化】生産スキルで内政無双~辺境からモノづくりで幸せをお届けします~  作者: スタジオぞうさん


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第61話 オリヴァーとエルフの森

 エルフの古老さんに少し話があってエルフの森にやってくると、森の近くで誰かがスケッチをしている。

 特に変わったところのない森だから、普段は誰もいない。


 こんなところで絵を描いているのはどんな人だろうと思って近づいてみると、キャンパスに森を描いているのはオリヴァーだった。


 今日はお化粧をしていなくて、服も動きやすそうなシャツと長ズボンだ。

 最近のオリヴァーは女装していないことも多い。何か心境の変化でもあったのかな。


「こんにちは、オリヴァー」

「わわ! ああ、これはウィリアム様」

 絵に集中していたのか、僕に気づいていなかったオリヴァーは飛び上がる勢いで驚いた。


「びっくりさせてごめんね。つい声をかけてしまって」

「いいえ、どうぞお気になさらずに。恥ずかしながら、僕は絵を描き出すと周りが見えなくなるんですよ」


「そうみたいだね」

 逆に言えば凄い集中力だ。そのお陰か、オリヴァーは絵がとても上手い。

 革鎧のスケッチをしてもらったときも感心したものだ。


 最近描いたものを何枚か見せてくれたが、風景画も上手だった。

 ただ情景を写実的に描くのではなく、なんというか、オリヴァーの心象風景もあわせて描かれている気がする。


 それにしても、描かれているのはこの森ばかりだ。

「この森が気に入っているんだね。」   

「ええ、何の変哲もない森に見えますが、なぜか気になるんですよ。このところよく来ています」


 鋭いな。ここに何かあると気づくなんて。

 エルフの「迷いの森」の魔法で内部の様子は外から分からないようになっていて、人が住んでいる気配もしないはずなのに。


 そういえば、オリヴァーは美しいものが好きで、いつかエルフの里に行ってみたいと言っていたな。

 これも巡り合わせかもしれない。古老さんとルーセリナに聞いてみてOKだったら、オリヴァーも連れていこう。


「オリヴァーはここでしばらく絵を描いているのかい?」

「ええ、今日は休みにしているんです。気を付けないと働き続けてしまうので、週に一度は休むように母に言われていて」


「あはは、オリヴァーは仕事熱心だからね。でも休むことは大切だと思うよ。僕はこの森にちょっと用事があるんだ。じゃあまた後でね」

 

 森に入って古老さんとルーセリナに打診すると、オリヴァーを連れていくことを了解してもらえた。

 レバント商会はエルフの作る木工品を良い値で買ってくれるから、支店長のオリヴァーには感謝していたらしい。


 うん、オリヴァーは商いでみんなを幸せにしているよね。

 森の外に出ると、オリヴァーはまだ絵を描いていた。

「オリヴァー、もし良かったらこの森に入ってみるかい?」


 オリヴァーはにっこりと微笑んだ。

「もしかして僕も連れて行ってもらえるんですか?」

「うん。というか、連れて行ってもらえるって、もしかして気付いてた?」


「ええ、実は何度か森に入ってみようとして、なぜか入れませんでしたから。それなのに先ほどウィリアム様は中に入って行かれましたから、もしかしたらここがそうなのかなと」

 さすがオリヴァーは頭が良いな。


「ご想像のとおり、ここがエルフたちの暮らす森だよ」

「ああ、やはりそうなんですね。ワクワクします」

 オリヴァーはいそいそとキャンバスを片付けた。


 僕はオリヴァーと一緒に森に入っていく。

「ウィリアム様と一緒だと森に入れるのですか?」


「いや、そうじゃないよ。仕組みはよく分からないんだけど、エルフが認めた人だけ入れる魔法がかかっているんだ」

「おお、そんな魔法があるんですね」


「うん。さっきオリヴァーを連れていく了解を得たから、オリヴァーも入れるようになったんだと思う」

「なるほど」


 しばらく進むと、エルフの隠れ里が見えてきた。

 ツリーハウスも見えてくる。


「エルフは木の上で暮らしているんですか?」

「みんなではないけれどね。木の上のほうが落ち着く人もいるらしいんだよ」


「森と調和した素晴らしい家ですね。見た目も綺麗ですが、木を伐るのではなくて、生きている木の上に住むという発想が良いですね」

「そうだね。森を大切にするエルフらしい家だよね」


 エルフの里を歩いていると、陶製の壺を抱えたエルフの女性が歩いている。

「壺の紋様は見たことのないものですが、複雑で美しいですね」


 言われてみると、複雑な蔓草模様が施されている。これまでは壺の模様をちゃんと見たことはなかったな。

 

 さらに歩いていくと、木陰で弦楽器を弾いているエルフがいた。

 オリヴァーは立ち止まって耳を傾けた。

「初めて聞く曲です。それなのに、どこか懐かしいような切ないような気持ちになりますね」


「そうだね」

 耳を澄ますと、どこか元の世界で聞いたツィゴイネルワイゼンに似ているような気もする。


 僕は用事を済ますとすぐに帰るか、ハンモックを借りて持ってきた本を読むだけだから、エルフの暮らしぶりはきちんと見ていなかった。

美意識の高いオリヴァーといると新しい発見があるものだ。

 やがて里の中心に着くと、族長のルーセリナと古老さんが迎えてくれた。


「いらっしゃい、オリヴァーさん。ここでお会いするのは初めてですね」

「はい、ルーセリナ様。商談でお会いしたとき以来ですね。今日はエルフの里を訪問させて頂き、ありがとうございます」


「あなたは良い価格で私たちのつくった物を買ってくれるので、みな感謝していますから。それにウィリアム様のご紹介ですからね」


「ありがとうございます。ウィリアム様は僕の命の恩人なのですが、どうやらエルフの方たちにとっても特別な存在なのですね」

 いや、そのあたりはあまり追求しないでもらえると有難いかな。


「それにしても、この里は美しいですね。美しいエルフの皆さんが住んでいるというだけではなくて、森と調和した木の上の家、綺麗な模様の壺、そして心を揺さぶるような演奏。皆さんの暮らし方の美しさに感銘を受けました」


「ほう、エルフの見た目を褒める人間は多くても、暮らし方を美しいと褒める者は滅多にいないのですよ。あなたは見どころがありますね」

 おお、古老さんが褒めている。流石オリヴァーだな。


「はい、皆さんの暮らし方が美しいことに感動しています。僕はノーザンフォードに来るまでは見た目の美しさばかりを追っていたのですが、ウィリアム様と周囲の人たちとの関係の美しさに魅せられました。本当の美しさは外見ではないと気づいたのです」


 オリヴァーは空を見上げて手を広げる。

「ああ、世界はこんなにも美しい」

 その刹那、オリヴァーを神々しい光が包んだ。


 何が起きたんだろう? この光は見たことがあるような。

 そして光が消えると、驚いたことにオリヴァーはその場に倒れ伏していた。





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