第60話 領地経営のレクチャーと王国貴族の結婚事情
今日はまた父上が領地経営のレクチャーの続きをしてくれる。
いずれ領地を持つ僕には重要な話ばかりだ。
「ウィル、前回は領民の仕事を増やす話だったが、今回は女性や子どもを支える仕組みを話そう」
「はい、よろしくお願いします」
「仕事をしたい女性たちには、裁縫や刺繍のような手仕事を教えている。最近はウィルの開発した石鹸の作り方を教えることもあるぞ」
おお、元の世界の職業訓練みたいなものかな。この世界では専業主婦はほとんどいなくて、女性も働いている。
「病気やケガで親を亡くした子どもたちは孤児院で保護している」
この世界は危険が多い。
フェアチャイルド家は街と街道の治安の維持に力を入れているけれど、野盗が出ることも、獣に襲われることもある。
病気で亡くなる人だって元の世界より随分多い。
「他の領地には孤児院の子を働かせるところもあるが、うちは子どもたちの将来のために読み書きと計算を教えている。勉強の苦手な子たちには手に職を付けられるよう、職人に教えに来てもらっている」
孤児に勉強させたり、職人に教えてもらう機会をつくっているのは父上が民を大切に思っている証拠だ。
そんな父上の統治を僕も見習いたい。
「ウィルも孤児院にときどき行ってくれているようだな」
「はい。木材を持って行ってどんなオモチャが欲しいか聞いて、その場で作ってあげています」
「うん、孤児院の院長から子どもたちがとても喜んでいると聞いているよ」
最近は生産スキルを授かった孤児院出身者が工房に弟子入りすることもあるんだ。彼らは真剣だから、伸びが早い。
工房の仕事はどんどん増えていくから、職人はいくらでも欲しいし、事務仕事も増えているから商業スキルを持っている人も雇いたいな。
レクチャーの合間に休憩を入れて、紅茶を飲んだ。
「兄上にも領地経営の話をされているのですか?」
「そうだな。ときどき話はしているよ。まあエディが領地を運営するのは私が引退してからになるから、学校を出てから私の隣りで学んでもらえば良いかな」
「そうか、兄上はゆっくり学べばいいんですね。その点、私は新たな領地を頂くから、いきなり自分で治めることになる。それでこんなふうに教えてもらっているのでしょうか」
「まあ、そういう部分はあるよ。でも独立しても、困ったときは遠慮なく相談してほしい。家族であることに変わりはないからね」
父上は柔らかく微笑んだ。
本当に良い父親だな。
この家に生まれて幸せだったとつくづく思う。
「そういえば、兄上の結婚相手はどんなふうに考えておられるんですか?」
「そうだなあ。うちは辺境伯だから、普通に考えれば伯爵家や子爵家のお嬢さんから探すことになる」
この国では自分の爵位と同じか少し下の貴族から嫁いでもらうことが多いようだ。
爵位が上の家から嫁いでくると受け入れるほうが気を遣うし、プライドの高い女性だと結婚生活が上手くいかないこともあるらしい。
「ただね、エディが良いと思う人でいいんだよ。学園の生徒会では南の公爵家のお嬢さんと仲が良いと聞いている」
「公爵家は王家に近い特別な家だから、辺境伯家とは家格が1つじゃなくて2つは違う感じはあって、エディは私たちに苦労をかけたくないと思っているみたいだけれど、本人同士が望むなら可能性はあると思っているよ」
確かに公爵家は別格という感じはある。両親の負担を考えるのは優しい兄上らしいな。
「爵位はどれくらい離れているところまで結婚はあり得るんですか?」
「そうだな、普通は二つまでかな。場合によれば三つということもある。王家の姫は他国の王族か南北の公爵家に嫁ぐことが多いんだけど、王女がたくさん生まれたときに伯爵家に嫁いだ例もある」
そうなんだ。王女が多いというと、前世で聞いた徳川家斉を思い出すな。
「ウィルは男爵に内定しているけど、今後さらに活躍して伯爵になれば可能性はあるかな」
「父上、そんなことは考えてもいませんよ」
王女殿下を妻にとは恐れ多い。父上の冗談はときどき怖い気がする。
「はっはっは。結婚はウィルが良いと思った女性とすればいいんだ。だいぶ先のことかもしれないけれど、貴族の結婚は早く決まることもあるな」
まだ結婚を考える年ではないと思うけど、貴族は子どものうちに結婚が決まることもあるようだ。
「パーティの様子を見てると、ウィルは女の子と話すのはあまり得意じゃなさそうだね。仲良く話せる子というとお隣のレティちゃんくらいかな。そういえば二人の仲がいいから、将来は結婚もあり得るかなとトミーと話したことはあるよ」
えっ、そんな話があったとは驚きだ。
「僕は辺境伯家の次男だから、伯爵令嬢のレティと結婚する可能性はないと思っていました」
「カーディフ伯爵家もうちと同じで政略結婚を考えない変わり者だからね。上級貴族の跡取りに娘を嫁がせようなんて考えていないよ」
それは知らなかったな。
「レティは本音で話せる貴重な幼馴染ですけど、何というか姉妹に近い感覚なので、そんなふうに考えたことはありませんでした」
「レティちゃんも同じらしいのよね」
うわ、母上、いつの間に。
「お母さん抜きで楽しそうな話をするなんてひどいわ」
いや、別に楽しい話じゃないと思うんですが。
「レティちゃんは綺麗だからもてるけど、男の子に見向きもしなくて、最近は剣の稽古に打ち込んでいるらしいわ。ウィルちゃんのことは本音で話せるし信頼できるけど、弟みたいだと言っているらしいのよ」
「レティはそんなことを言っているんですか。同い年なのに! 誕生日は僕の方が早いんですよ」
ぐぬぬと僕が唸ると、両親は苦笑した。




