第59話 エルフへの御礼
ドワーフの村を訪ねた後で工房に戻るテオと別れて、僕は一人でエルフの森にやって来た。
いつものように『迷いの森』のかけられた森に入っていく。
静かな森の中をしばらく歩いていると、隠れ里が見えてきた。
出迎えてくれたエルフに、族長さんと古老さんに少しお話があると伝えてほしいと頼んだ。
しばらく待つつもりだったけれど、二人はすぐに出てきてくれた。
「すみません、急にお邪魔をしてしまって」
「いえいえ、今日はどのような御用ですか?」
「この地の南にある地脈のクロスポイントを探索するとおっしゃっていましたが、未開地は危険も多いと思います。少しでも良い装備をしてもらいたいと思って、これを持ってきました」
魔法で収納していた革の防具を出すと、古老さんは驚いた。
「これは……二つの耐性が付与されておりますね」
魔法のエキスパートである古老さんは鑑定魔法も使える。
「はい。取り敢えず10組ほど持ってきました」
付与の種類は少し工夫してある。
帽子とブーツは鎧と違って魔物に角で突かれたり、刃物を刺されることは少ないだろうと思って、刺突耐性ではなく切断耐性にした。
森を行くエルフが魔物に爪を振るわれたり、人攫いや盗賊に刃を振るわれたときに護りたいと願って革に付与をしたら、切断耐性を付けることができたんだ。
「救世主様、これは探索をする者にとって素晴らしい防具ですが、貴重で高価なものですね。おいくらで買わせて頂けば良いでしょうか?」
ルーセリナはドワーフの族長さんと同じようなことを言う。
ただで貰おうとか借りようとかいう発想はしないみたいだ。
「僕が付与したものですからお金はかかっていません。父にも相談しましたが、これは植物素材を探して頂いたお礼ですから、お代は要りません」
「いや、そういうわけには」
「ルーセリナさん。世界樹のお話を聞いてから、僕も世界のためにできることをしようと思うようになりました。未だに救世主という柄ではないと思っていますが」
救世主と呼ばれるのは、きっといつになっても恥ずかしいだろうけど。
「地脈のクロスポイントの探索には僕も参加すべきだと思うんです。でも僕はまだ子どもで家を長く離れられませんし、戦うのは得意ではありません。だからせめて、少しでも良い装備をお渡ししたいんです」
「ルーナ、ここは救世主様のお言葉に甘えることにしましょう」
「お祖母様……それではありがたく頂戴いたします」
受け取ってもらえて良かった。
本当はエルフだけを行かせたくない。
父上に事情を話して騎士たちの同行を頼もうかとも思ったけれど、辺境伯家の騎士団は自領と樹海でしか活動できない。
王家直属の王国騎士団以外に、自分の領地の外でも自由に騎士を活動させることができるのは公爵家だけだ。
公爵家は普通の貴族と違い、王家から多くの権限を認められている。
探索に参加する予定のエルフの皆さんに集まってもらい、鎧とブーツ、帽子を身に着けてもらった。
サイズは革紐である程度調整できるように作ってあるけれど、それでも難しい場合は生産スキルで大きさを調整する。
服のお直しまで魔法でできるんだから便利なスキルだ。
「「救世主様、ありがとうございます!!」」
「僕にはこれくらいしかできませんから」
サイズの調整をした後で、古老さんに聞いた。
「妹に魔法を教えて頂き、ありがとうございます。ソフィアの魔法は上達していますでしょうか?」
ソフィーは数日に一度くらいエルフの森に来て、古老さんから魔法を教えてもらっているんだ。
「妹さんは筋が良いですよ。今はそれぞれの属性の魔法を練習していますが、順調なら今年のうちに次の段階に進めると思います」
「次の段階ですか?」
「ええ、これまで人族に教えたことはありませんが、エルフに伝わる複数の属性をあわせて放つ複合魔法をお教えしたいと思います」
なんと、そんな魔法が存在するとは。
「それはとても強力そうな魔法です。でも良いのでしょうか? エルフしか知らない魔法を妹に教えて頂いて」
「ソフィアさんは素直で真っすぐな良い子ですから構いません。フェアチャイルド家は良い人ばかりですね」
「ありがとうございます」
「それに、いずれ魔物との戦いが本格化すれば、トリマギアで魔力量も非凡なソフィアさんは人類側の貴重な戦力になるでしょう」
「古老さんに貴重な戦力と言ってもらえるとは、ソフィーの素質は本物のようですね」
「ええ、妹さんの素質は本物です。そのことを伝えると、上の兄は剣の天才で、下の兄は生産スキルの天才なのに、自分は普通の魔法の才能しかないことが悔しかったら嬉しいと言っていました」
いつも明るいソフィーがそんなことを考えていたとは。
「子どもを戦いに巻き込むのは本意ではないとも言ったのですが、ソフィアさんは自分も役に立てるなら嬉しいと。小さいのにしっかりしておられますね」
「子どもであっても貴族である以上、戦える力があれば戦います。父も母も反対しないでしょう」
兄としては、本当は妹を危険な目にあわせたくないけれど。
フェアチャイルド家では男女を問わず、民のために自分のできることをするようにと子どもを教育する。
ソフィーが自分も役に立ちたいという気持ちは分かる。
最後に妹が魔法を教えてもらう謝金を渡した。
古老さんは魔法を教える御礼もなかなか受け取ろうとしないから、父上から「何としても渡してきてくれ」と頼まれていたんだ。
フェアチャイルド家は子どもの教師に謝礼も払わないということでは困ると言って、どうにか受け取ってもらった。
ドワーフもエルフも本当に無欲な人たちだ。




