第58話 ドワーフの友
エルフの古老さんは、世界樹が早く成長できるように地脈のクロスポイントを一族の者に探索させると言った。
世界樹の重要性はよく理解できたから、必要なことだ思う。
そして地脈の流れは人族には分からないからエルフが適任だとは思う。
でも、未開地は無法地帯だから盗賊や人攫いもいるかもしれない。
そんな危険な場所にエルフたちが行くのだから心配になる。
せめて、できる限り良い装備を整えたい。
そもそも、オリヴァーの勧めてくれた木の実の詰め合わせセットは喜んでもらえたけれど、植物素材を探してくれた御礼にはなっていない。
御礼といえば、母上を助けるために古文書の情報を惜しみなく教えてくれたドワーフたちにも十分できていない。
だから、エルフとドワーフに付与魔法で耐性を付けた装備を贈りたいと思う。
エルフには二つの耐性付きの革の防具が良いかな。
ドワーフには別の耐性がいい気がする。
「テオ、ドワーフの鍛冶師は高熱の材料を扱うんだよね」
「そうですね、熱した鉄を叩きますから」
だとすれば、付けたい耐性がある。
新しい付与をするために工房の新館の地下にテオとやってきた。
材料となる鹿皮を広げると、イメージを描いていく。
高熱の炉の前で槌を振るうドワーフを熱から護るもの。
火の粉が飛んできても弾き、一心不乱に槌を振るうドワーフの鍛冶師を護るもの。
イメージできたところで集中して、生産スキルを発動する。
身体の奥から魔力が手の先に集まっていく。
魔法陣が手の平の上に浮かび、鹿皮が温かい光に包まれる。
温かい光が消えた後には、紅く変色した皮があった。
鑑定してみると『樹海の鹿の皮:熱耐性・大(付与)』となっている。
よし、狙ったとおりだ。
付いた耐性は一つだけだけど、その代わり効果が大きくなったのかな。
テオに鑑定結果を説明すると、「これはドワーフがみんな欲しがりますよ」と言ってくれた。
その後、いつものようにテオが複製を発動すると、まったく同じものができた。
やはりテオのスキルは凄いな。
それから二人で「熱耐性・大」の付いた革を作り、その革を素材にして、鍛冶師が身に着けるエプロンとグローブ、ブーツに加工していった。
頑張って十人分作った。
「これは素晴らしいものですよ」
テオが太鼓版を押してくれたから、ドワーフへの良い贈り物になるかな。
翌日、父上の執務室を訪ねた。特性を付与したものは父上の了解を得ないとエルフやドワーフたちに贈れない。
「すみません、お時間を頂いて」
「構わないよ。今日はどんな用事だい?」
父上に、ドワーフとエルフに随分助けられているのにお礼が十分できていないから、二つの耐性を付与した革の防具をエルフに、火耐性・大の付いたエプロンやグローブをドワーフに贈りたいことを話した。
「なるほど、確かに両方の種族に十分なお礼ができていないな」
予想どおりではあるけれど、父上が僕と同じ気持ちでいてくれて嬉しい。
「よく分かった。両方の種族にウィルの付与したものを贈ろう。陛下からは複数の耐性を付与をしたものはあまり周囲に知られないようにと言われているけれどね」
やはりそうだったんだ。
「火耐性・大は効果の大きい耐性だから、二つ耐性が付与されているのと同じ価値があるだろう。でもドワーフとエルフにきちんと御礼をするのは大切だね」
「それに彼らが使っても他所の人間に知られるリスクは低いだろう」
「ありがとうございます。それではドワーフとエルフに贈ってきます」
僕は足取りも軽く、ドワーフの村をテオと訪ねた。
「よう来たのう、今日はどうしたんじゃ?」
「叔父さん、今日は鍛冶師用のエプロンとかを持ってきたよ」
テオは赤い革のエプロンやグローブを出して説明した。
「おお、そりゃあ凄い品じゃのう。熱耐性・大とは」
族長さんは早速鑑定したようだ。
「鍛冶師はいつも火傷の危険と隣り合わせじゃ。中にはひどい火傷をして鍛冶師を辞める者もおるから、みな欲しがるじゃろう」
「喜んでもらえて嬉しいです。これは全部差し上げます」
「儂らが貰えるのはありがたいが、これは高価なものじゃ。一枚当たりいくら払えばええかのう?」
「父にも相談してきましたが、これは母を救うために協力してくれた御礼ですから、お代は頂けません」
「いや、儂らはメアリー様が無事だったことで満足じゃから、お礼は要らん」
「そうおっしゃるだろうと思いました。ただ、そのことについて父は『大切な妻を助けてもらったのに御礼ができないのは私の誇りに関わる。何としても受けとってほしい』と言っていました。私も父と同じ気持ちです」
「はっはっは、なるほど誇りか。いや、考えてみれば儂らとは比べ物にならんくらい領主殿やウィリアム殿はメアリー様のことを大切に思い、心配しとったじゃろう。そうすると、お礼を受け取らんのも失礼かのう」
そして族長さんは恭しく赤い革の鍛冶師用装備を受け取った。
「そもそも樹海から逃げてきた儂らを保護してくれたんじゃから、協力するよう命じることもできたはずじゃ」
「それなのに頭を下げて頼んできて、さらにこんな良い物を御礼にもらえるとはのう」
族長さんはいかつい顔に優しい笑みを浮かべた。
「それにこれは売るためじゃなくて、儂らドワーフのために作ってくれたものじゃろう。こんな分厚くて重いエプロンは人族の鍛冶師は使いにくいはず」
確かにドワーフたちの使いやすさだけを考えて作ったけれど、族長さんはすぐに気が付くんだな。
「領主殿もウィリアム殿も本当に良いお人柄じゃな。ウィリアム殿、領主殿に伝えてくれるか。ドワーフは確かに礼を受け取った。我らはフェアチャイルド家を『ドワーフの友』とみなすと」
「叔父上、いいのですか?」
テオが驚いている。
人間よりも誠実なドワーフが友と言うのは重い。
「テオ、構わんよ。儂らはフェアチャイルド家と共にある。もしも魔物の群れがこの地を襲ったとて、逃げはせん」




