第57話 領民の仕事を増やそう
王家からの呼び出しで王都に行き、乾燥に強い小麦や結核の特効薬を開発した功績を認めてもらった。
そして大人になったら男爵位を頂けるというお話が陛下からあった。
僕は長男じゃなくて次男だから領地は持たないはずだったけれど、男爵になる以上は領地を持つことになる。
だから王都から戻ってからは、ときどき父上が領地経営のレクチャーをしてくれるようになっているんだ。
「ウィル、今日は領民を豊かにする話をしようか」
「はい、お願いします」
「領民を豊かにするには、農業では農地を整備したり、優秀な品種や特産品を開発することになる。ウィルが乾燥に強い小麦を開発したことは飢饉を防ぐだけではなく、領民を豊かにすることにもつながっている」
「僕のつくった小麦で農家の人たちが豊かになれば嬉しいです。あとは特産品も開発できるといいのですね」
「そうだな。普通は商品開発は簡単じゃないんだけど、ウィルなら何とかしてしまいそうな気もするな」
「そんなことないですよ」
前世の知識も生かせば特産品も作れるかもしれない。
でも、あまり目立つのは避けたいな。
「商業については、たとえば領内の人口が増えれば消費が増えるから、商売をしている人たちの収入が増える」
「なるほど、領内の人口が増えれば経済にもプラスなんですね」
「そうだね。そして他領からの旅行客が増えれば、旅館やレストランの売上が増えることになる」
「観光客の増加ですか。それには観光名所があると良さそうですね」
「そのとおりだよ、ウィル。もしかして観光名所も生産できるのかい?」
「さすがにそれは無理ですよ」
「それから職人たちの仕事を増やすには、フェアチャイルド家から発注する仕事を増やしたり、町の人から頼まれる仕事を増やすことになる」
領主が頼む仕事というと、元の世界でいえば政府の発注する公共事業みたいなイメージかな?
「職人の仕事という視点からみると、工房は新しいものを作り出してくれるのは素晴らしいが、気を付けないと町の工房の仕事を奪ってしまう」
「なるほど、だから注射器や石鹸は町の工房に生産を頼んでいるんですね」
「そのとおりだよ、ウィルは理解が早いね。だから工房は他では作れないものに専念してもらおうと思っているんだ。町の工房に仕事を回すことでウィルの収入が減るのは済まないとは思うんだが」
「えっ、工房の仕事は僕の収入になるんですか?」
「もちろんだ。子どもだからといってただ働きをさせたりしない。工房は大きな利益を上げているから、その一部は商業ギルドのウィルの口座に入金しているよ」
それは知らなかったな。
「先日陛下から頂いた褒賞金もあるな。ウィルが全部工房の新築や職人たちのために使おうとして困ると、メイベルとテオから相談があったよ。だから褒賞金の三分の一にあたる白金貨100枚はウィル個人の口座に入れてある」
「そうだったんですか」
白金貨100枚というと一億円か。工房の利益の一部とあわせて、いくら口座に入っているんだろう
僕の反応を見て、父上は肩を竦めた。
「やれやれ、やはり気付いていなかったか。たまには自分の口座の金額を確認した方が良いと思うよ」
「すみません」
「最近はオリヴァー君がウィルの収入と支出も管理してくれているようだけどね」
えっ、オリヴァーが? ほんとに知らないことだらけだな。
「オリヴァー君は優秀だね。建物の改修や道路工事を他領と交渉して良い条件で引き受けて来たよ。それに領民の雇用も増やしてくれるし、報酬をちゃんと受け取るようドワーフたちをうまく説得してくれてもいる」
おお、さすがオリヴァー。
「見た目は個性的だけど、彼の仕事ぶりは堅実だね。ウィルの資金管理については自ら申し出てスミスのチェックを受けている。もちろん銅貨一枚ごまかされていないと報告を受けているよ」
知らないうちに回りの人たちにお世話になっていたようだ。
「ウィルの新しい領地にもついてきてくれそうだし、将来領地をもったときのために大切にするといいと思う」
「はい。オリヴァーには驚かされることも多いですが、優秀なうえに信頼できる人だと思っています。将来の家臣として大切にします」
「ははは、ウィルも将来の領主として自覚が出てきたようだね。良いことだよ」
将来の領主か。
僕個人の資金も将来の領地に投資することになるだろうから、今後はもっとちゃんと把握しよう。
「領内を豊かにする方法には交易もあるね。ここは辺境だから、自領で作れないものは遠方から商人に持ってきてもらう必要があって、多少高値でも買うしかなかった」
「ええ、それは聞いたことがあります」
まさに田舎の悲哀だ。
「でも今はウィルの工房や町の工房でつくったものを商人たちが争って買いに来てくれる。買い付けで利益が出る分、ここで売る物の値段を安くしてくれるから、領内の物価は下がっているんだよ」
「それは嬉しいですね」
「おっと、もう夕食の時間だね。今日は家族揃って食べる予定だから、遅れると母さんに怒られちゃうね。続きはまた今度にしよう」
「はい、分かりました」




