第54話 のんびり過ごそう
誕生パーティは疲れ切った。
元の世界でも多くの人たちと話すのは苦手だったんだ。
誕生日の前もずっと忙しかったから、しばらくのんびり過ごそう。
働き過ぎてはいけない。
工房はみんなが自主的に活動してくれるから、僕がいなくても大丈夫だ。やはりオリヴァーが事務面でサポートしてくれるのは大きい。
石鹸の生産も順調で、メイベルたちの作るカラフルな透明石鹸はちょっと高価なのに飛ぶように売れている。
工房の仕事は増え過ぎないよう気を付けている。
工房で作ったものは、できるだけ街の工房に作り方を教えて、お任せできるところはお任せしている。
最近はもう家具や鞄はほとんど作っていない。
工房をブラック職場にしないためでもあるし、町の職人さんたちの仕事を増やすためでもある。
ともかく、のんびりしたい。今日からは、なるべく用事は入れないようにしよう。
お昼ご飯の後、自分の部屋に戻って昼寝をしてみた。
昼間の明るい時間に眠るのは何だか新鮮な体験だ。
それから、ぶらぶらと市場を散歩した。
「焼いたソーセージを一つ」
「あいよ」
店員が小さ目の固いパンを持ち手のようにしてソーセージを挟んで、手渡してくれる。
お行儀が悪いけれど、買い食いをしながら歩くのは解放感があるなあ。
晴れた日には、エルフの森にお邪魔してハンモックをお借りした。
ノーザンフォードの本屋さんで買った新しい本や、レバント商会に頼んで取り寄せてもらった本を持っていく。
静かなエルフの森で、ハンモックに寝そべって本を読むのは至福の時間だ。
休日には工房のみんなと遊びにも行った。
休もうとしない人が多いから、週に一日は工房を閉めて休みにしている。
週休二日でもいいと思うんだけど、この世界では定期的に休みがあるだけホワイト職場らしい。
ものづくりは趣味でもあるから、ときどきテオと二人で新しいことに挑戦する。
この間は付与をした革について工夫してみた。
「革に付与をするなら、鎧じゃなくてもいいんじゃないかな?」
「鎧以外の革製品に打撃耐性とか刺突耐性を付けるんですか?」
「うん、たとえば母上やソフィは外出するときに鎧じゃなくても防御力の高い革の服があるといいかなと思って」
「なるほど、男性でもいつも鎧を着ている訳じゃないですからね」
何度かやってみたけれど、なかなかうまくいかない。
「うーん、やはり耐性の付いた服をイメージしづらいからかな」
「師匠、まず耐性の付いた革を作って、それから加工してみたらどうでしょう?」
「なるほど、それでやってみよう」
樹海の鹿の皮を準備して、二つの耐性を意識しながら集中する。
手の先に魔力が集まり、手の平の上に魔法陣が浮かぶ。
どうやら生産スキルを発動できたみたいだ。
温かい光が消えると、『丈夫な革:打撃耐性(付与)、刺突耐性(付与)』ができていた。
次に付与をした革を使って服を作ると、今度はうまくできた。
どうやら材料に先に付与をしておくと、服の耐性をイメージしなくても耐性の特性の付いた服が作れるようだ。
ハーフコートを作って、次にロングコートを作った。
もっと小さな物にもいけるかな。
革のブーツも作ってみた。
「あとは頭を覆うものでしょうか」
「そうだね」
革の帽子を作ることにしよう。
デザインはどんな感じが良いかな?
いろいろテオと話して、ハンティングキャップみたいな男性用の帽子と女性用のベレー帽を作ってみた。
特性を付与をした革の服は自分でも着ている。
最近気に入っているのは『革のハーフコート:打撃耐性(付与)、刺突耐性(付与)』だ。
焦げ茶色の皮のハーフコートで、タウンウェアとしてもそれなりにお洒落なデザインじゃないかと思っている。
服のデザインに僕は詳しくないから、オリヴァーに相談してイラストを描いてもらい、その絵をイメージしながら作ったんだ。
それに加えて耐性を付与した革のブーツを履いて、さらに耐性を付与した革のハンティングキャップを被っていると、普通の鉄製の鎧より防御力がある。
耐性を二つ付与した服は、父上と母上には皮のロングコートを作り、妹にはハーフコートを作った。
どれもデザインはオリヴァーの手によるものだ。
王都の兄上にも送ったし、王家にも献上した。
耐性の二つ付いた革鎧は、父上が報告をして陛下と相談した結果、あまり広めないことになった。
諸外国を刺激するおそれがあるらしい。そんな大事になるとは思わなかった。
革鎧は取り敢えず王国騎士団の倉庫に保管されているみたいだ。
でも革の服は、王家の人達が普段から使っているようだ。
王女殿下からの手紙にそう書いてあった。
フローラ殿下からは結構頻繁に手紙が来る。
殿下からお勧めの本を聞かれて、読んで楽しかった本を紹介することもある。
殿下とは良い友人になれそうな気もする。




