第52話 13歳の誕生パーティ
4月になり、僕は13歳の誕生日を迎えた。
思い出してみると、この一年はいろんなことがあったなあ。
乾燥に強い小麦を無事に収穫できて嬉しかったし、樹海から脱出してきたエルフたちを領内に迎え入れ、メイベルが工房に来てくれた。
エルフの古老さんからは救世主だと言われたときは驚いたものだ。
母上が結核で倒れたときは心配したけれど、ドワーフの古文書がヒントになり、使徒として覚醒したテオの活躍もあって、薬を作ることができた。
生産スキルで母上を助けることができたことで、このスキルを選んで良かったと確信することができた。
それから王都に初めて行って、陛下とフローラ殿下にお会いした。
将来は男爵に叙爵されることになったけれど、どうにも実感はない。
オリヴァーが工房を手伝ってくれるようになってくれたのはありがたかったな。
何しろ会計担当も置いていなかったし。
救世主と言われても僕は力不足だから、周りのみんなが助けてくれるのはありがたい。
振り返ると、本当に目が回るような一年だった。
この一年はゆっくりできるかな?
ゆっくりできるわけがないと聞こえた気がするのは空耳だよね。
今年の誕生パーティには特別なゲストが来る。
北の公爵家の長男であるルーカス・シェフィールドだ。
王立学園では兄上の一つ後輩になるらしい。
感染症が猛威を振るっている間は学生たちも移動を自粛していたものの、薬がある程度行き届き、感染が下火になったので移動できるようになったようだ。
そこで兄上が帰省しようとしたところ、後輩のルーカス・シェフィールドが同行したいと希望したと聞いている。
兄上の人脈は順調に広がっているようだ。
ちょうど僕の誕生パーティもあるので、公子も参加してくれることになった。
将来の叙爵が決まったこともあって、貴族の女の子たちに気を付けるように両親から言われている。
でも兄上と公爵家の長男が来るのなら、みんな二人の方に行くだろう。
フローラ王女殿下からは、誕生祝いの手紙とお祝いの品が届いた。
殿下の手紙には自分が参加できないのが残念だと書いてあったけれど、きっとそれは社交辞令だろう。
パーティの当日。
辺境伯家のホールは満員になっている。
ゲストとして来てくれた公爵家嫡男と兄上を紹介したら、会場から歓声があがった。
僕は主だったお客に挨拶をすると、周りに気付かれないように壁際に移動した。
うん、貴族の女の子たちは期待どおりにルーカス・シェフィールドと兄上を囲んでいる。
二人とも美少年だし、大貴族の跡取りだしね。
会場から死角になっているテーブルで静かに紅茶を飲んでいると、聞き覚えのある声が聞こえた。
「今日の主役がこんなところで何をしてるのかしら?」
「やあ、レティ、久しぶり。ルーカス殿と兄上のおかげでのんびりできて、ありがたいよ」
レティは頭を抱えた。
「ありがたいじゃないでしょう、まったく。自分が主役だから会場の中央に行こうと思わないの?」
「うん、まったく思わないよ。主だったお客にはご挨拶をしたし。よく知らない人に気を遣いながら話すのは苦手なんだ。特に女の子とは上手く話せない」
「普通の男の子は女の子が寄って来ると喜ぶのだけれど。ウィルはお爺さんみたいね」
「酷いな、レティ。僕は13歳になったばかりなのに」
レティはやれやれという感じだったが、僕の隣りに座って紅茶を飲み始めた。
「まあ私もパーティは得意じゃないから気持ちは分かるわ」
「えっ、君が? カーディフ家でパーティがあると、取り巻きに囲まれて堂々としているのに?」
「取り巻きという言い方はよくないと思うわ。私を褒めてくれる人たちはいるけれどお世辞を聞いても嬉しくないの。立場上愛想笑いはしているけれど、本当は疲れているのよ」
「うーん、聞いてはいけないことを聞いた気がする」
「主役なのにサボっている貴方に言われたくないわね」
アハハと二人で笑う。うん、レティは気を遣わずに話せる貴重な幼馴染だよ。
「ところでウィル、フローラ王女殿下はどんな方だったの?」
「ああ、授かったスキルが商業スキルだったからずっと気に病んでおられたようだ」
「そう。この国の貴族は剣と魔法しか見ていないのはおかしいわ。内政も重要だというのに」
「そのとおりなんだけどね。でもオリヴァーから聞いた商業スキルの良さをお伝えしたら、前向きになられたようなんだ」
「それは良かったわ。今日、お祝いが届いたのは、その御礼かしら?」
「うん、それもあると思う。ただ、殿下とは何度か手紙のやり取りはしているから、その延長線のような気もする」
「あら、そう。殿下と仲良くなったのね。殿下の美少女ぶりは有名だから良かったじゃない。ウィルは男爵に叙されることが決まったけれど、きっともっと高い爵位が得られるわ。王都で活躍することも夢じゃないわよ」
「いや、僕は辺境でのんびりしていたいんだ」
「ほんと相変わらずね。もう少し野心があってもいいんじゃない?」
「一貫していると言ってほしいな」
そうして壁際でのんびりしていたら、兄上に見つかってしまった。レティはエディ兄上の気配を察知して、素早く逃げている。
「主役が壁の花になって、どうするんだい?」
優しい兄上に珍しく叱られてしまい、会場の中央に連れて行かれた。




