第50話 新しい工房の構想と手紙
新しい工房は王都に行く前から建てる予定でいたから、家宰のスミスが既に土地を用意してくれている。
今の工房のすぐ近くの便利な場所だ。
そして褒賞金をもらったから予算も潤沢に使える。
だから新しい工房には良い材料が使えるだろう。
一方、古い工房の建物も壊さずに残すつもりだ。
職人さんたちは使い慣れた工房に愛着があるようだし。
さて、新しい建物はどんなふうにつくろうかな。
工房の主要メンバーであるテオ、メイベルとカーペンターに加えてオリヴァーにも集まってもらって相談した。
「ウィリアム様が良いと思われるものがいいと思います」
テオが言うと、メイベルもカーペンターも頷いた。
いや、僕はみんなの意見が聞きたいんだけど。
「皆さん、ウィリアム様を尊敬されて遠慮していますよね。でも意見を言ったほうが良いこともあると思います」
「オリヴァーの言うとおりだよ。僕は未熟だし、気づかないことも多い。思いつきでもいいから意見を言ってもらえるとありがたい。」
何しろ会計担当すら置いていなかったしね。うう、思い出しても恥ずかしい。
「それでは新参なのに恐縮ですが、私から」
オリヴァーが口火を切ってくれた。余計な遠慮がないのはありがたい。
「これまで工房になかった事務部門を新しい建物に置いてはいかがでしょうか。会計をするほかに、工房の商品を買いたいと希望する商人との交渉もできると良いと思います」
「なるほど、それは必要そうだね」
「では、会計担当の部屋と来客用の受付、打ち合わせ用の会議室をお願いします。今後は貴族の来訪も考えられますから応接室もあったほうが良いかと」
「分かったよ。新しい建物に必要な部屋を作ろう。みんなも他に必要なものはないかな?」
オリヴァーが口火を切ってくれたおかげで、みんなも意見を言ってくれた。
「女性用の更衣室があると嬉しいです」
「職人が打ち合わせをする場所があると有難いですね」
「人に見せられないような開発のできる部屋があると良いかと」
やはりみんな考えはあったんだな。それを聞くことができたのはオリヴァーのおかげだ。
僕に遠慮しないで、言いたいことを言ってもらえるようにしないといけないな。
新しい工房に必要な機能はだいたい分かったところで、次は建物のデザインだ。
デザインはオリヴァーも含めて全員が僕に任せるとのことだった。
ただし独創的なものを作る工房ですから、できれば他にはない斬新なものが良いですね」とオリヴァーは言っていた。
どんなデザインがいいかな。少し考えることにしよう。
工房で打合せを終えてうちに帰ったら、手紙が届いていた。
赤い蜜蝋で封印されているから貴族からだと思う。
父上にではなく僕宛てにというと、誰からだろう。
蜜蝋に押された紋章をみると二頭のグリフォンだ。
えっ、この紋章は王家のものでは。
銀製のペーパーナイフで恐る恐る開封すると、フローラ殿下からの手紙だった。
手紙には、王家と取引のある商人からアドバイスを受けて、商業スキルを伸ばすために計算の勉強をし、王国の地理や歴史の本も読んでいることが書いてあった。
良かった。フローラ殿下は前向きに努力されているみたいだ。
それから、宰相が家臣の中から商業スキルを持っている者を探して早速内政担当として養成しようと始めたこと、陛下は生産スキルと商業スキルを持つ貴族の子女を集めて教育することを考えておられることも書いてあった。
これまで日陰の存在だった生産スキルと商業スキルが注目されるようになったのは僕のおかげだと書いてあった。
それは褒めすぎだと思うけれど、剣と魔法以外のスキルに日が当たるのは嬉しいことだ。
そして、フローラ殿下自身が前を向いて人生を歩めるようになったことを僕に感謝してくれて、また会いたいと書いてあった。
少しでも殿下のお役に立てたのなら嬉しいことだ。
陛下からはご学友になることを期待されている感じもした。
僕で良ければ、殿下の良き友人になれればと思う。
またお会いしたいと返事をしておこう。
ただ、また会いたいというのは貴族の社交辞令でもある。
僕が王都に行く機会はあまりないし、殿下が西部の辺境に来る機会はさらにないだろう。
実際には、お会いする機会はそうそうないと思う。
さて、社交辞令でも殿下からの手紙だから、両親に報告しておこう。
父上に報告したところ、「フローラ殿下が前向きになられたのは良かったな」という反応だった。
次に母上にも報告した。
「あらあら、ついにウィルちゃんが女の子からの手紙の相談をしてくれるようになったのね」
「いや、相談というわけではないですし、女の子といっても殿下ですよ。それに会いたいと書いてあっても社交辞令だと思いますが」
「どうかしら? 表情が無かったフローラ殿下はウィルちゃんに会ってから人が変わったように生き生きしておられるという評判は西部にも聞こえているわ」
「そうなんですか?」
「ええ。ウィルちゃんが王女殿下を元気づけることができるなんて、嬉しいことだわ。この先が楽しみね」




