第49話 オリヴァーの見たウィルの周囲の人たち
※今回はオリヴァーの視点です。
父さんを説得してアレックス商会を継ぐことを止め、命の恩人であるウィリアム様のもとで働くために西部にやって来た。
会計の担当者すらいない工房の状況にはちょっと驚いたけど、その分、僕もお役に立てそうで良かった。
母さんには、皆さんの迷惑にならないように言われたから気を付けないとね。僕は変人で自然と周囲を振り回してしまうから。
さて、工房のスタッフとして働くけど、当面はレバント商会のノーザンフォード支店長を兼任することになる。
だから支店長として周囲に挨拶をして回った。
もちろん領主であるフェアチャイルド辺境伯には真っ先に着任のご挨拶をした。
「はじめまして、レバント商会ノーザンフォード支店長のオリヴァー・レバントと申します」
「先日、うちの夏至祭に来てくれていたから二回目かな」
「あのときはご挨拶もしなかったのに、覚えていてくださったのですか? とても嬉しいです」
辺境伯閣下はなぜか頭を抱えた。
「いや、そんな笑顔を向けられると正直に言えば混乱するな。ウィルから聞いてはいたが、本当に見た目は美少女なんだね」
「私は美しい物が好きなんです。自分もできるだけ美しくなりたいと思ったら、こういう外見になりまして」
「そうか……まあ、人それぞれだな。ノーザンフォードにようこそ。大商会が支店を出してくれるのはありがたい。よろしく頼むよ」
そこから支店の活動について簡単な打ち合わせをした。
少し話しただけで、辺境伯閣下は呑み込みが早くて無理な注文もせず、良い領主だと分かった。
ウィリアム様やソフィちゃんの話を振ってみると、子どもへの愛情が豊かな人であることも伝わってくる。
さらに工房のことを話題にすると、ウィリアム様の活躍を心から喜んでおられて、支援したいと考えておられることが分かった。
上級貴族なのに、本当にいい父親なんだね。
次に辺境伯夫人のメアリー様にもご挨拶をした。
ノーザンフォードの太陽と呼ばれるほど民衆に人気のある方だ。
ご挨拶をすると笑顔を返してくれたけれど、なぜか緊張が解けない。
「それで、ここには何をしにいらしたのかしら?」
もしかして僕は警戒されている?
優しい目なのに、目の奥は笑っていない気がして恐ろしい。
何を警戒されているかよく分からないけれど、正直に話すしかないと思った。
「私は感染症で死にかけたとき、ウィリアム様の薬に命を救われました。そのご恩返しをしたいと思い、この地に参りました」
「ご恩返しとおっしゃるけれど、具体的には何をなさるおつもりなの?」
「はい、当面はレバント商会の支店長を兼任しますが、ウィリアム様の工房の経理など運営面のお手伝いができればと思います」
「あら、そうなの」
「はい、ウィリアム様は物作りの天賦の才がありますが、事務仕事は得意ではないように見受けましたので、私がお役に立てる部分もあるかと思います」
「貴方の言うとおりでしょう。ウィリアムの手伝いをしてくださるのは助かるわ。それで当面は兼任とおっしゃったけれど、将来はどうなさるおつもりなの?」
追求はまだ終わらないようだ。
「はい、ウィリアム様は男爵に叙されると伺いました。そのときには家臣となり、領地の繁栄に貢献できればと思います」
「ご恩返しをしたい気持もありますが、破格の生産スキルをお持ちであるウィリアム様の領地運営に参加することは商会の経営以上にやり甲斐があると思っております」
これは僕の本心だ。ウィリアム様の近くにいるほうが、単に商売をするよりも面白そうで、ワクワクするようなことが起きるんじゃないかと思っている。
父さんには、その辺りも見抜かれたように思う。
「そうなのですね。あまり綺麗な男の子だったから、ウィリアムをどうするつもりかなと心配してしまったのよ。心の内を聞かせてもらい感謝します」
ようやくメアリー様からの圧が弱まった。
「どうかウィルちゃんを支えてあげてね」
メアリー様は初めて優しい笑顔をみせてくださった。
どうやら認めて頂けたようだ。ほんとに緊張したなあ。この方だけは怒らせないようにしよう。
領内を挨拶して回り、いろいろと話を聞いていると、ウィリアム様は家族だけではなく周りの人たちに愛されていることが分かった。
そしてウィリアム様の周囲の人たちの間にも信頼関係があり、驚くほど良好な人間関係が築かれている。
たとえばモノ作りの片腕といえるテオドールさんはウィリアム様を師匠として尊敬し、樹海から逃げてきたドワーフを助けてくれたことに深く感謝している。
そして親を亡くした自分を家族同然に受け入れてくれたメアリー様をはじめフェアチャイルド辺境伯家にも恩義を感じているようだ。
ウィリアム様の生産スキルを学びに来たメイベル様は、生産スキルの未来を切り開くウィリアム様を尊敬している。
そして妹のソフィア様のことは大切な友人と思っているようだ。
男爵家の令嬢なのに、良い意味で貴族らしくない、真面目で優しい人という印象だ。
職人のとりまとめ役のカーペンターさんは年長者だけれど、ウィリアム様を師匠として敬愛している。
テオドールさんやメイベル様のことも子ども扱いせず、それぞれの能力をきちんと評価しているようだ。
そしてウィリアム様も周囲の人たちのことを大切に思っている。
何しろ僕が工房スタッフとして最初に受けた相談は、エルフとドワーフにどうすれば御礼を受けてもらえるかという話だった。
取り敢えずエルフには木の実の詰め合わせセットを、ドワーフには肉を焼くときの香辛料セットをお勧めしたところ、喜んで受け取ってもらえたと満面の笑みを浮かべられた。
なんて美しい人間関係だろう。
互いに認め合い、大切に思い、相手に良かれと思っている。
僕はこれまで美術品も人も、見た目の美しさが大切だと思って来た。
でも世界の本当の美しさとは、見た目とは別のところにあるのかもしれない。




