第45話 陛下と父上の話
※今回は父上(フェアチャイルド辺境伯)の視点です(ウィルとフローラが話していたときに時間は少し戻ります)
ウィルが皇女殿下に会いに行った。
うまく話ができると良いが。
「セオドア、急に済まんな。ウィリアム君は驚いているだろうな」
「いえ、あの子は不思議と大人びたところがありますから。ただ、殿下のお役に立てるかどうかは」
「いや、少しでも気持ちが変わってくれればというだけだ。ウィリアム君に過剰な期待は持っておらんよ」
「それにしても、フローラ殿下はそこまでスキルのことを気にしておられるのですか」
「ああ、商業スキルは金儲けのスキルだという陰口を言う者がおって、それを聞いてしまってな。自分は政略結婚の駒としてしか価値がないと思い込んでいるのだ」
「商業は国に必要なものですが」
「そのとおりだ。だが貴族の中には剣と魔法しか見えておらぬ愚か者がおる」
陛下は嘆かわしそうに首を振られた。
「政略結婚の話にしても、誰かが余計な話をしたのを聞いてしまったようだ。もう上の娘二人が隣国の王子たちに嫁いでおるから、下の二人は政略結婚する必要はないのだがな」
「そうでしたか」
陛下は随分悩んでおられるようだ。
ウィルの生産スキルが大きな貢献を成し遂げたことを聞いて、王女殿下が剣と魔法以外のスキルにも価値があると思ってくれると良いのだが。
「ところで、ウィリアム君は天才なのだろうが、それにしても短期間でここまで大きな成果を挙げたことは驚きではある。何か特別な理由はあるのかな?」
「私も驚いてはおります。特別な理由があるとすれば、ドワーフとエルフが協力してくれたことでしょうか」
ウィルは神様のお告げがあったと周囲に話したそうだが、そういう裏の取れない不確実な話はここでしない方が良いだろう。
だが、陛下のほうから驚くべき話があった。
「そうか。実はセオドアに話しておきたいことがあってな。ここからは他言無用で頼む」
陛下がそう言うと、メイドたちは部屋から出て行った。
扉の前には宰相が呼んだ近衛騎士が立ち、誰も近づけないようになった。
「さて、このアルビオン王国は約300年の長い歴史がある。故に様々な伝承があるのだが、その中に『闇の力強まりしとき、救世主現れん。救世主は剣や魔法の力で闇の軍勢を打ち払わん』というものがある。この伝承は多くの貴族が知っておる。我が国で剣と魔法が重視されている所以でもあるな」
確かに私も知っている。
「だが、王家にはそれ以外のことも伝わっておるのだ。それは『救世主は外の世界の知識をもって民を助けるであろう』というものだ」
それは初めて聞いた。
「乾燥に強い麦はともかく、感染症の薬と治療器具は普通の者には思いつけない物に思える。ウィリアム君は剣も魔法も使わないが、もしかして救世主ではないのだろうか?」
「私には分かりません。ですが一つだけ申し上げられるのは、ウィリアムは私とメアリーの大切な息子だということです」
「ああ、言葉が足らなかったな。救世主様は外の世界から転生してくるとも伝わっておるから、もし救世主様だとしてもウィリアム君がセオドアとメアリーの子であることに変わりはない」
陛下はさらに、救世主様は剣や魔法の力を持つと伝わるのだから、あくまでも可能性の話だと付け加えられた。
「ところで、ウィリアム君を男爵に将来叙する話は隠すものでも無いからメイドたちにも聞かせた。あれだけの功績を挙げたのだ。爵位を与えることは自然なことだ」
そうかもしれないが、武功ではなく内政の功で爵位を得るのは異例ではある。
賢王と呼ばれるエドガー二世陛下が内政の重要性を理解されているからこそだと思う。
「それにフローラに会ってもらったからな。きっと王都や近辺の貴族たちは大騒ぎになるだろう」
「はい、明朝すぐに王都を発つつもりでおります」
「はは、それが良いだろう。苦労をかけるな。その代わりというわけではないが、街道沿いの騎士団の詰所にある王家の宿泊所を使って構わぬ」
おお、それはありがたい。普通の宿に泊まろうものなら、その町の領主が寄って来るだろう。
「お気遣いに感謝いたします。ありがたく使わせて頂きます」




