第41話 初めての王都
父上から王家に呼び出されたと聞いて何ごとかと思ったら、乾燥に強い小麦と結核の薬を作ったことの褒章の話らしい。
母上と妹に見送られて、父上と一緒に王都に向かう。
「ウィルちゃん、行ってらっしゃい」
母上はすっかり元気になって、いつもの笑顔をみせてくれている。
「王都で悪い女の子につかまっちゃ駄目よ」
母上によると、僕は将来有望な貴族の子として有名になりつつあるらしい。
王都の貴族の娘たちは僕に近づいてくるだろうから、気を付けないといけないのだそうだ。
「お兄様、ふしだらなことをしてはいけませんよ」
どこでそんな言葉を覚えたのかな、ソフィ。
それに、まだ王都に行ってもいないのに冷たい目で見るのは止めてくれないかな。
微妙に疲れていると、父上は笑って僕の肩をぽんと叩いた。
「それじゃあ、行ってきます」
馬車で街道に出る。
ノーザンフォードから王都に向かう街道は、うちの領内はだいたい石畳の道にした。
だから馬車はあまり揺れず、土埃も立たない。
道路の両側にはエルフが協力してくれて背の高い街路樹も植えている。
そのおかげで風も避けられるし、夏は日陰もある。
「ウィルのおかげでこの道も随分良くなったよ。快適になったし、馬車が速く進めるから、一日で移動できる距離も伸びた」
「ドワーフたちが頑張ってくれたのが大きいです」
「あはは、ウィルは相変わらず謙虚だね。ドワーフの族長はウィルの生産スキルのお陰だと言っていたよ」
ドワーフこそ謙虚で無欲だと思う。
族長さんには薬をつくるときに重要なヒントを教えてもらい、とてもお世話になった。
でも御礼をしにいったら「メアリー様が回復されて良かった。ドワーフもみな喜んどる。御礼は不要じゃ」と言われた。
御礼と言うと受け取ってくれないから、母上の回復祝いをしてほしいと言って食べ物とお酒を渡したら、ようやく受け取ってくれた。
良い人たちだ。うちの領地に来てもらって良かった。
道路を整備したので、ノーザンフォードから王都まで以前は馬車で一週間かかっていたけれど五日で済む。
道中は特に問題もなく、順調に進んだ。
やがて王都ウィンセスタが見えてきた。
ウィンセスタのシンボルであるリンクスター城の優美な姿も見えてきた。塔も城壁も白く塗られ、白鳥城とも呼ばれる城だ。
王都は城壁で囲まれている。
その正面にある大門には商人など多くの人が列を作って門番のチェックを受けている。
僕らの馬車は貴族用の小さな入口からすぐに入れた。
そして石畳の道を通り、王城のある中心部へと向かう。途中に市場が見えた。機会があったら寄ってみたいな。
高位の貴族はみんな王城の近くに屋敷を構えているらしく、大きな邸宅ばかりのエリアに入ってきた。
その中の一軒に馬車は着いた。
ここが王都にあるフェアチャイルド辺境伯家の屋敷だ。話には聞いていたけれど、僕は初めて来た。
使用人たちに迎えられて、中に入る。
僕らが来ることは事前に知らせてあったみたいで、メイドさんが部屋に案内してくれた。
部屋のベッドに転がり、ふぅっと息を吐く。
長旅だったから、思ったより疲れていたみたいだ。僕はすぐに眠りについた。
翌日、父上と一緒にリンクスター城に登城した。
すぐに城の応接室に通され、メイドさんの淹れてくれた紅茶を飲みながら待つ。
ふかふかの椅子に座り、壁に飾られた油絵や陶器の壺を見ていると、陛下が来られるという知らせがあった。
父上と一緒に立ち上がる。
扉を開けて入ってきたエドガー二世は、金髪碧眼で威厳の中に優しさも湛えた王様らしい人だった。
「遠方から呼び出してすまなかったな、セオドア。公式な謁見ではないから寛いでくれ」
父上と僕は椅子に座った。陛下の前にも紅茶が供される。
「さて、今回来てもらったのは褒賞の話をするためだ。まず、王国が旱魃に苦しむ中、乾燥に強い小麦を開発し、普及に協力してくれたことに感謝する」
「王国貴族として当然のことをしたまでです」
「次に、多くの犠牲者を出している感染症の薬を開発したこと。これも素晴らしい功績だ。麦も薬もセオドアの次男が生産スキルで開発したと聞いたが」
「はい、陛下。そのとおりです。今日は開発者であるウィリアムを連れて参りました」
「おお、君が噂のフェアチャイルド家の神童か」
うわ、王様に声をかけられた。緊張するなあ。
「小麦も薬も、ドワーフや周囲の人たちの助けがあって、運良く開発することができました」
「はは、君は謙虚だね。だけど、樹海から逃れてきたドワーフに家を建てたのも君だと聞いている。その恩返しに協力してくれたのだとしたら、それも君の功績と言っていい」
陛下はそんなことまでご存知なのか。
「その功績にどう報いるか、その話をするために来てもらったのだ」




