第40話 栄養のある食べ物
工房ではストレプトマイシンと注射器をできる限り増産している。
まずは領内で使う分を確保したら、他の貴族の領地にも届けたいと思う。
そのときに無料で配るわけにもいかないけれど、いくらで売ればいいのか、父上に相談した。
「そうだなあ。確かに人件費や材料費もあるからタダというわけにもいかないが、類似品もないから値段を付けるのは難しいな。そこはレバント商会に任せよう」
「確かに難しいですよね。レバント商会に丸投げするので良いのかなという気もしますけど」
「はっはっは。餅は餅屋だよ。たくさん儲けたいなら自分で根付けをしてもいいのだろうが、うちは妥当な値段なら良いんだ。レバント商会なら酷いことはしないさ」
なるほど、そういうものかな。
そういえば、レバント商会のノーザンフォード支店は近いうちに完成するらしい。
あと問題なのは、王国内に広めるほどの量を作るとなると時間がかかることだ。
すべての患者に行き届くには、きっとかなりの時間がかかる。
その間にできることはないのかな。何もしないでいると、きっとたくさんの人が犠牲になるだろう。
辺境でのんびり暮らしたいけれど、自分のできることをしないで多くの人が亡くなるのは嫌だと思う。古老さんによれば、これも闇との戦いになるようだし。
前世の記憶によると、結核の対策は紫外線で殺菌するために日当たりの良い場所にいることと栄養をきちんと取ることだった。
日当たりの良い場所にいることは呼びかければいいとして、栄養を取ってもらうために、小麦以外に良いものはないかな。
乾燥に強い小麦が豊作になる保障はない。たとえば冷害も同時に起きたら豊作とはいかないだろう。
できればあまり手がかからなくて、収穫まで時間がかからないものがいいけれど、そんな都合の良い作物はあるわけないか……いや、あるな。
ジャガイモだ!
痩せた土地でも寒いところでも育つし、フランスでは「大地の林檎」と呼ばれるくらい栄養も豊富だ。
「貧者のパン」と言われることもある救荒作物のエース格だ。サツマイモも良い作物だけれど、寒い土地では育たない。
これまで見たことがないから、この世界にジャガイモは無いみたいだけど、似たようなものはないかな。
いろんなイモ類を手に入れて鑑定してみると、小さくて堅いイモだけどデンプンの豊富なものがあった。
それと大きいけれどあまり栄養のないイモがあった。
今回も素材探しをエルフの皆さんが手伝ってくれた。やはり植物に詳しいから頼りになるな。
二種類のイモを並べて、ジャガイモを強くイメージして生産魔法を発動する。
温かい光が消えた後、見慣れたイモが現れた。
うん、見た目はジャガイモだ。でも中身はどうなんだろう?
ジャガイモの弱点も意識しながら鑑定してみると『ジャガイモに似たもの:痩せた寒冷地でも育つ。デンプンを豊富に含む。毒性あり。連作障害はない』だった。
やった、作ることができた!
ところでジャガイモという言葉はこの世界にはないから僕にしか意味がない。もしかすると鑑定魔法は魔法師の思考に応じて鑑定結果を表示しているのかな?
鑑定魔法は謎が多い。
それにしても、ジャガイモの問題点である連作障害が無いのはありがたい。
やはり異世界のイモを基に作ったから、前世のジャガイモに似てはいても別の物みたいだ。
でも毒性はあるようだ。みんなに安心して食べてもらえるように、生産スキルでジャガイモを作り変えられないかな。
毒性がないことをイメージして生産スキルを発動しようとしたけれど、手の先に集まった魔力が散ってしまう。
やはりもう少し具体的なイメージがないとスキルが発動しないようだ。
ジャガイモの毒は芽や緑色になった部分に含まれているソラニンやチャコニンだったな。このイモはジャガイモに似ている以上、同じ毒である可能性は高いだろう。
ソラニンやチャコニンを作り出す遺伝子を取り除くことをイメージして、収穫したイモをみんなが笑顔で食べている場面を思い浮かべる。
今度は手の先に集まった魔力が消えることなく、手の平の上に魔方陣が浮かんだ。よし、うまくスキルが発動したようだ。
光が消えた後に出来たイモを鑑定してみると、『ジャガイモに似たイモ:痩せた寒冷地でも育つ。デンプンを豊富に含む。毒性はなく連作障害もない』と表示された。
これで毒性も取り除くことができた。
ところで、「ジャガイモに似たイモ」という名前は何とかならないかな。この世界に存在しなかったものだから、もしかして僕が名前を考えると鑑定結果に反映されたりしないかな。
もし名付けるとしたら、どんな名前がいいかな? 英語のポテト? フランス語ではポム・ド・テールだったかな。ジャガイモをただ外国語で呼べばいいってものじゃないだろうから、少し変えてみよう。
ポム・ド・テールを略してポムテなんてどうかな? 少し可愛い響きで良いんじゃないかな。そう思いながら鑑定してみると、本当に『ポムテ』と表示された。本当に鑑定スキルは謎が深いな。ともあれ、このイモはこれからポムテだ。
ポムテをつくる材料は、小さくて堅いイモも大きいけど栄養のないイモも、樹海じゃなく普通の土地にあったので、すぐに数を集めることができた。
あとはいつものように工房の職人さんを集めて作り方を説明し、実演してみせた。
相変わらずテオはすぐに作れた。複製を発動しなくても普通の生産スキルで大丈夫なようだ。
職人さんたちも練習するとできるようになってきた。
ただし毒性を取り除くのは僕しかできない。職人さんたちにはイメージが難しいだろう。
種イモの数を揃えるまでは僕が頑張るしかないかな。
このところ、工房の役割が増えてきたから人手が必要だ。
父上に相談したら、工房で働きたいという希望者は多いようだったから増員することにした。
そうなると工房の建物も手狭になるから、もう一つ建物を建てなくちゃ。
そう思っていると、家宰のスミスが今の工房のすぐ近くに土地を手配してくれた。いや、スミスは有能すぎるな。とてもありがたい。
あとは工房のスタッフが増えると管理が大変かな。取りまとめ役のカーペンターは街道の整備をしているし。テオもメイベルも他のものづくりの仕事がある。
誰か物作りの職人じゃなくてマネージメントしてくれる人がいるといいんだけど。
ともあれ、ポムテをある程度つくれたから、直轄地の農場に植えてもらった。ポムテはジャガイモと同様なら成長も早くて百日くらいで収穫できるだろう。
今回は切羽詰まっていないし、新種の小麦のときみたいに頑張らなくてもいいよね。
これで一息つけるかなと思っていたら、王家から呼び出された。




