第37話 薬を増やそう
エルフの古老さんからのアドバイスを受けて、結核の特効薬であるストレプトマイシンを見つけたのは神様のお告げのおかげだと説明した。
みんなの反応が心配だったけれど、思ったよりスムーズに受け止められた。
というよりも、納得している人が多かった。
母上付きのメイドは「奥様は女神の意志を体現してこの地を照らすような方ですから、奥様を助けるためにウィリアム様にお告げがあったのではないでしょうか」と言っていた。
父上と母上の耳にも使用人たちの話は耳に入っていると思うけれど、両親は僕には何も聞いてこなかった。
直接話すのなら本当のことを話したいから、何も聞かれないのはありがたい。
エディ兄上からは手紙が来た。
母上が重病と聞いて学校を休んで西部に帰ろうと準備をしていたところ、母上は回復したから戻ってこなくて良いと父上から知らせが届いたようだ。
手紙には「ウィルが薬を作って母上の病気を治してくれたと聞いたよ。本当にありがとう。心からウィルのことを誇りに思う」と書いてあった。
今回は母上を助けるためとはいえ、ずい分やらかしたと思っていたから、こんなふうに兄上が真っ直ぐ受けとめて褒めてくれると安心する。
母上は順調に回復しつつある。
前世の知識だと、完治するまでには半年くらい投薬が必要だったはずだけれど、投薬してから三日目に鑑定したらもう『結核(ほぼ治癒)』となっていた。
この世界の人は魔力があるから薬が早く効くのかな?
よく分からないけれど、治りが早いのは良いことだ。
薬を増産して各地に配ったとき、注射に抵抗がある人も、すぐに治ると知れば注射するようになるだろう。
そうすれば結果的に犠牲者が少なくなる。
ただし、薬をどうやって増やすかが問題だ。
テオは土を材料にストレプトマイシンを複製してくれたけれど、量産は難しかった。
ちなみにテオが覚醒して得たスキルの詳細はエルフの里で判明した。
テオが世界樹から現れた石板に触わるとぼうっと光り出し、鍛冶師の説明の隣に「ユニークスキル『複製』:救世主の作り出したものを土の材料にして複製する」という表示が浮かび上がったんだ。
貴重だったり希少だったりする材料を使って僕が作ったものでも、その辺の土を材料にして複製できるという、とんでもないスキルだ。きっと今後も助けられることがあるだろう。
ただ、少しの量の複製でも大きく魔力を消耗するので、テオ一人でたくさん薬を複製するのは無理だったんだ。
こうなると正攻法で行くしかないか。
ストレプトマイシンを作る放線菌ストレプトミセス・グリセウスは分離できていたので、まずは菌の培養だ。
前世では寒天培地で培養していた。
この世界では寒天は見たことがないし、料理やお菓子に詳しい使用人に聞いても知らなかった。
でも幸いなことに寒天の原料になるテングサはあった。
テングサから寒天を作るには、水を加えて加熱して寒天を抽出するんだったかな。
その後でろ過してから冷やして固めていたような。
ただ、そのあたりは生産スキルがやってくれる。
寒天のイメージを強く持って、テングサと水に生産スキルを発動すると、寒天ができた。
あとはペトリ皿だけど、プラスチックはないから鉄製で代用した。
それから培養といえば、他の微生物が混入するコンタミネーションが心配だけれど、ストレプトマイシンは殺菌効果が高いから大丈夫だ。
数日して様子をみたら、ちゃんと菌は増殖していた。
あとは生産スキルでストレプトマイシンを分離すれば良い。
ひととおりのプロセスを自分でやってみてから、工房の職人たちに教える。何人かの職人はすぐに覚えて上手く作れるようになった。
ちなみに職人一人一人に個性があって得意分野は違う。
たとえばとりまとめ役のカーペンターは名前の意味が大工さんだからか、建物を作ったり修理したりするのが得意だ。
薬を作れるようになった職人は他の仕事から外れてもらい、薬の量産につとめてもらった。
そして領内の重症患者に投与を始め、付き合いのある貴族家やレバント商会にも少し送った。
ただ注射器は高価な銀製のものしかないから、今のところ貴族や大商人しか使えない。
広く薬を使ってもらうには安い注射器を作って量産しないといけないな。




