第34話 テオの覚醒
※途中から第三者の視点です。
結核の特効薬ストレプトマイシンを分離できたけれど、増やす手段がない。
どうしよう?
パニック気味になった僕にテオが冷静に声をかけてきた。
「師匠、とにかく薬は見つかったんですね」
「うん、薬は見つかったよ。ただ、量が足りない気がする」
「薬を作る菌も分離したから培養すればいいんだけれど培地がなくて、どうやったら増やせるか思いつかないんだ」
ああ、こんな説明で伝わるだろうか。培養とか培地とか、この世界にはない概念だろうに。
「薬を作る菌という生き物を増やすことが難しいんですね。では薬自体を増やす方向で考えましょう。生産スキルはイメージしたものを作ることができますし、ここに完成した薬があるのですから、スキルで同じ物を作れないかやってみます」
さすがテオだ、説明不足でも理解してくれる。
それにテオは僕の作り出した物と同じ物をつくるのが得意だった。
「テオがこの薬と同じ物を作ってくれると凄く助かるよ。埃みたいに見えるこっちの方がストレプトマイシン。母上の病気に効くはずの薬だ」
「不思議な響きの名前ですね。これを増やせばいいんですね」
「うん。でもテオ、材料は何を使うんだい?」
「土です」
「えっ、土?」
「僕はドワーフですから、困ったときは土に頼るんです」
テオはその辺りにあった土のいくつかを周りに置くと、目を瞑って集中した。
いや、その土にはストレプトマイシンは含まれていないよ。
でも、凄い集中力だ。
そのとき、テオの体が不思議な神々しい光に包まれた。
生産スキルが発動してテオの手の先が光り、手の平の上に精緻な魔方陣が浮かぶ。
そして土は温かい光に包まれていく。
光が消えると、それなりの量の粉末が出来ていた。
鑑定してみると『ストレプトマイシン(結核の特効薬)』と出た。
「凄いよ、テオ。ちゃんと同じ物ができてる!」
「そうですか、良かった」
「後はこれを母上に投与すれば。ええと、確か筋肉注射だったはず」
と思ったところで、この世界には注射器がないことに思い当たる。
ええい、無ければ作ってしまえ。
あたりを見回すと銀製の燭台が目に入った。確か世界で最初の注射器は銀製だったはず。
燭台に生産スキルを発動し、銀製の注射器を作った。
そしてテオが増やしてくれたストレプトマイシンを水に溶かして注射器に入れる。
「よし、準備ができた」
僕とテオは工房を飛び出して、母上のいる館に走っていった。
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その頃、エルフの隠れ里では救世主の石板に異変があった。
「おお、救世主の石板が光っておる!」
石板の空欄だったところに文章が浮かび上がっている。
古代エルフ語で書かれていて読める者は少ないが、エルフの古老は読むことができた。
「ふむ。『一人は鍛冶師。古き血の者。鍛冶師なるも、救い主を支えるは鍛冶の技にあらず、生産の才なり』と書いてある」
そこにルーセリナもやって来た。
「おばあ様、何か光ったような気がするのですが?」
「おやルーナかい? 使徒の一人『鍛冶師』が覚醒したみたいだよ。石板には『鍛冶の技ではなく生産の才で救世主様を支える』と」
「『鍛冶師なのに鍛冶の技ではなく生産の才で支える』ですか。それはテオのことではないでしょうか?」
「きっとそうだろう。しかし古き血の者とは。どうやらテオドールはエルダードワーフだったようだね」
古老さんは納得したように頷いた。
「道理であの子は他のドワーフとは見た目も違うわけだ。おそらく先祖帰りで生まれたんだろう」




