第33話 大地の恩恵
少しでも早くドワーフの村に行くため、団長のリアムに騎士団の馬を貸してくれるよう頼んだ。
母上の病気を治す薬の情報を集めるためだというと、一番良い馬を二頭貸してくれた。
「メアリー様はこの地に暮らす者を照らす太陽です。ウィリアム様、どうか頼みます」
リアムの言葉に送られて、僕らはドワーフの村に急いだ。
「おお、久しぶりじゃのう、テオ。それにウィリアム様も」
族長であるテオの叔父さんが出迎えてくれた。
「そんな深刻な顔をして、何があったんじゃ?」
「叔父さん、メアリー様が感染症で倒れた。師匠は生産スキルで何とか薬を作ろうとしているんだけど、手がかりが必要なんだ」
「何と、メアリー様が? それは大変じゃ! あのドワーフにも優しい方が。
夏至祭でテオを家族の列に加えたのもあの方じゃと聞いとる。それを聞いて泣いたドワーフは多いんじゃ」
「叔父さん、うちの一族の古文書に感染症のことも何か書いてなかったかな?」
「ちょっと待ってくれ、今すぐ調べる。一族以外に見せてはいかん古文書じゃが、メアリー様のためじゃけえ、そんなことは言っとられん」
テオと僕は族長の家に入り、待たせてもらう。
族長の奥さんが温かいお茶を出してくれた。そういえば、ずっと体に何も入れていなかった。乾いた体にお茶が沁みる。
しばらくして、族長は首を振りながら古文書を抱えて出てきた。
「病の話はあるにはあったが、意味が分からん」
「どんな内容なんですか? 何でもいいので教えてください」
僕が食い気味に頼むと、族長は古文書の内容を教えてくれた。
「儂らに伝わる文書には『血を吐く病が我らを苦しめるとき、大地の恩恵が病を癒すであろう』とある。大地の恩恵をいつもドワーフは受け取るから、何のことか分からんのじゃ。『答えは土の中に見つかるであろう』とも書いてあるんじゃが」
大地の恩恵…… 。
そして、答えは土の中にある。
それは僕の記憶を呼び覚ますには十分なキーワードだった。
そうだ! ストレプトマイシンは土の中にいる放線菌が作る物質だった。
「思い出した!」
僕は叫んで立ち上がった。
「族長さん、おかげで貴重な手がかりが得られました。テオ、土の中の小さな生き物がこの病気に効く薬を作るんだ」
「よく分かりませんが、師匠を信じます。それで、僕らは何をすれば良いんでしょう?」
「いろんな場所の土を集めてほしい。どこかにその生き物がいると思う」
「分かりました。ドワーフは大地の種族。いろいろな土を持っているはずです。集めて持って帰りますので、師匠は工房の皆にも土を集めるよう指示してください」
「分かった」
僕は馬を飛ばして工房に行き、領内のいろんな所の土を持ってきてほしいと職人達に頼む。
「土ですか?」と急な話に職人たちは戸惑う
メイベルが僕に聞いてきた。
「ウィリアム様、どうして土が必要なのですか?」
「母上の病を治すために必要なんだ」
母上の病と聞いて、職人たちの表情が真剣なものに変わる。
「よく分かりませんが、母君のメアリー様の治療のためなのですね」
「うん、メイベル。そのとおりだ。母上を治す薬は土の中の小さな生き物が作るんだ」
僕とメイベルの話を聞くと、職人たちのとりまとめ役のカーペンターが「みんな、手分けして土を探すぞ!」と言った。
職人たちは真剣な顔で「お前はどこの土を探す?」「俺は隣の町に行く」とか相談しながら、次々に部屋を出て行った。
みんな、ありがとう。
「私は工房の生産が遅れることを関係する方たちに連絡してきます」
「すまない、メイベル。後で僕も謝るから、今は薬のことに集中させてほしい」
そして僕は、工房の自分の部屋で土が集まるのを待った。
近くに行った者から帰ってくる。
とにかく持ち込まれる土を鑑定し続けた。
しばらくしてテオが戻ってきた。手ぶらだったけれど、空間から大量の土を出した。
「テオ、それは?」
「とにかく急いで土を運ばないといけないと思ったら、収納魔法が使えるようになりました」
そんなことがあるのかな? ともかくありがたい。
ドワーフはさすがに大地の種族というだけあって、いろんな土をテオは持ってきてくれた。
「秘蔵の土も出させましたから」
秘蔵の土なんてものがあるのはドワーフならではだ。
鑑定してみると、中には『樹海の奥地の土』というのもあった。きっと大事に抱えて逃げてきたんだろう。大切な物を提供してくれてありがたい。
とにかく鑑定を続ける。
そして、ついに当たりをひいた。
鑑定結果に『ストレプトマイシン(結核の特効薬)の含まれた土』と出た。
「見つかったよ! テオ。これが薬の含まれた土だ」
「良かったです!」
土に向かって集中し、生産スキルを発動する。
温かい光が消えた後に、埃のような物質が二つと土に分かれた。
うん、無事に分離できた。
鑑定すると、小さな埃のように見える物質は『ストレプトマイシン:結核の特効薬』と『ストレプトミセス・グリセウス』だった。
「よし、薬とそれを作る菌が分離できた」
「この後はどうするんです?」
しまった、必要な物質を分離した後のことを考えていなかった。
この小さな埃のようなストレプトマイシンで足りるか分からない。
「ええと、薬を作る菌を培養して増やす必要があるんだけど」
菌の培養は寒天を使っていたような気がするけれど、この世界で寒天を見たことがない。
それにとにかく時間が惜しい。培養するとなると時間がかかる。
どうしよう?




