第28話 王家の依頼
今日の更新はこれで最後ですが、しばらくは毎日、複数話を更新します。
日が沈むのが早くなり、夜は虫が涼やかに鳴くようになった。
秋の到来だ。
実りの季節だけれど、夏に小麦を十分に収穫できなかったところでは食料が不足することが明らかになってきた。
フェアチャイルド辺境伯領は豊作だったからノーザンフォードの街には十分に食料がある。
それでも、近隣の領地の噂話をする街の人たちの表情は心配そうだ。
「あの男爵領では種麦まで食べているらしいよ」
「食べ物が足りない土地だと税が払えなくて逃げ出す人や、やけになって盗賊になる人もいるらしいぞ」
もちろん各地の領主も保存していた麦を供出するなど対策を行っているようだ。
ただ、それでも足りないところもあるようだ。
うちで収穫した小麦はレバント商会を通じて売っているけれど、国全体に行き届くわけではない。
アルビオン王国に飢饉の影がかかり始めている。
そして、そのことを王家も重く受け止めたようだ。
食料不足の対策を議論するために主要貴族に招集がかかり、王都で緊急会議が開かれることになったんだ。
父上も招集されて、急に王都に行くことになった。
警備のため同行する騎士たちを揃えたり、道中の宿を予約したり、準備は大変だったようだ。
出発の準備ができたとき、家令のスミスはやつれていた気がする。
父上は余裕のある麦を供出するよう陛下から指示される可能性を考えて、レバント商会に連絡して売却を止めた。
ぎりぎりまで売って儲けようとしないところは真面目で誠実な父上らしい。
しばらくして父上が王都から戻ってくると、僕は執務室に呼ばれた。
「実はウィルに関係のあることも頼まれたんだ。だから会議で決まったことを話しておこうと思ってね」
食料不足の対策としては、まず旱魃の影響の少なかった南部などの麦を王家が買い上げて食料の足りない地域に安く売るらしい。
食料不足の地域には貧しいところが多いことに配慮し、それと同時に無料で供出することは求めずに王家が費用を負担するのは、賢王と呼ばれる陛下らしい。
でも、次に父上から聞いた内容には驚いた。
「それに加えて陛下の判断で、ウィルの作り出した乾燥に強い小麦は食べるのではなく種麦として蒔くように王国中に指示することになった」
「えっ、どうしてそうなったんでしょう? そもそも私のつくった小麦のことを陛下がご存知なのは驚きです」
「陛下は国内の状況はよく把握されているよ。ただ、今回は第三王女殿下から話を聞かれたようだ。どうやらエディが第三王女殿下に麦の話をしていたようだな」
「第三王女殿下? そういえば王立学園の生徒会長でしたか」
「ああ、エディは副会長だから親しいようだぞ。なんでも生徒会室でウィルの麦のことをエディが殿下に自慢したらしい」
兄上、王女殿下に何を話してるんですか?
「そんなわけで、陛下から新種の小麦をできるだけ多く売ってほしいと頼まれたんだよ」
陛下の依頼はもちろん断れないし、王家から依頼されるのは貴族として大きな名誉でもある。
レバント商会に王都で事情を伝えたところ、うちの麦を売れなくなるけれど「陛下の命令ですから」と快く了承したそうだ。
こうなってみると、冬まで待たずに麦を売り始めるというオリヴィアの判断は商会にも利益をもたらした。
冬まで売らずに待っていたら王家に買い上げられて、レバント商会がうちの麦を売る機会はなかっただろう。
さらにレバント商会は、フェアチャイルド辺境伯領は栄えているし、今回のように急いで意思疎通を図るときのためにノーザンフォードに支店を置きたいと希望してきたようだ。
辺境にはふつう大商会の支店などない。
レバント商会の支店ができると領内経済にプラスになるから父上はすぐに了承したそうだ。
「ところでウィル、今回陛下がフェアチャイルド辺境伯家の作った小麦と言わずにウィリアム・フェアチャイルドが作り出した小麦だと言われたことの意味は分かるかい」
「よく分かりません。どういう意味があるのでしょうか?」
「うん。今回の件でフェアチャイルド家の功績は大きいと評価され、家名も上がるだろう。それはウィルのおかげだから感謝しているよ」
「ただ、陛下がウィルの名前を出したことで、ウィル個人の功績にもなるんだ。それと同時に、王家はウィルの能力に注目していることを知らしめることにもなる」
そんなことになってしまったのか。
領民が飢えるのを見たくなかったから乾燥に強い小麦を作っただけで、王家に注目されるつもりは無かったんだけど。
「ウィルはこれからも活躍するだろうから、大人になったときに王家から爵位を得てうちから独立することになるかもしれない。
それは名誉なことだし、もちろん独立しても私もエディもウィルを応援するよ」
そんなことになるなんて、思ってもいなかった。
僕は辺境でのんびりとものづくりをしたいんだけどな。
な顔をしてしまったせいか、父上が隣に来て肩をぽんぽんとしてくれた。
「何があっても、ウィルがお父さんとお母さんの子であることに変わりはないよ。それに爵位を得たとしても西部を離れなきゃいけない訳じゃない」
「普通の貴族ならウィルを中央に送り込もうとするんだろうけど、うちは普通じゃないからね。
ウィルが望むなら、独立しても西部に残れるように根回しを頑張るよ」
ありがとう。父上の優しさが沁みる。
僕には大人だった記憶があるし、いずれこの世界でも大人になるけれど、できればこの優しい家族の近くにいて、家族のためにものを作りたいな。




