第25話 樹海からの新たな来訪者
樹海の近くにある小さな町ラーイ。
「去年は大騒動があったな」
「ほんとになあ。ドワーフは領都に住み着いたらしいけど、最初に現れたのはラーイだったから、急に有名になったよな」
「それな。領都の夏至祭に行ったら、『あのラーイから来たんですか』なんて言われてさ」
「でもまあ、あんなことはもう無いだろうな」
「そうだな。そのうちみんな忘れて、元の名も知られない田舎町に戻るのさ」
しかし、そのラーイに樹海から新たな来訪者が現れようとしていた。
「ようやく樹海を抜けましたか」
「ええ、ここまで来れば安心でしょう」
「皆は無事ですか?」
「はい、怪我人はいますが。どうにか皆、樹海を乗り切りました。途中ではぐれた族長夫妻のことは心配ですが」
「皆が無事なのは何よりです。これも女神様のおかげ。皆、祈りましょう」
一団は祈り始めた。
男女とも美しく、長い耳が特徴的だ。
「姫様、それでは近くの町に参りましょう」
「そうですね。ここはドワーフたちから聞いた良き領主の治める土地です。
きっと援助を求めても大丈夫でしょう」
「ですが、途中でいらぬトラブルを招かぬよう、みなフードを被るのです。
暑くても我慢するように」
――――――――――――――――――――――――――――――――
「旦那様、大変でございます!」
家族で朝食をとっていると、家令のスミスが慌てて飛び込んできた。
夏至祭が終わってからはのんびり過ごしていたんだけれど。
何があったんだろう?
「どうしたんだい? スミス」
「それが、また樹海から来訪者が現れたようです」
来訪者? またドワーフの一族かな。
「ほう、今度はどのような者たちかな」
「はい、ラーイの町からの使者が言うには、見た目が美しく耳が長いそうです。
町長の前でフードを脱いだとき以外はずっとフードで顔を隠しているとのこと。
おそらくエルフで間違いないかと」
「なんだって! 人族を避けるあのエルフが?」
「はい。使者によりますと、当家の保護を望んでいるとのことです」
エルフは美しいので、さらって売ろうとする悪人に狙われやすい。
だから人族を避けていて、滅多に人族の国に現れない。
剣と魔法の世界に転生して、もしかしてエルフに会えるかもと期待していたから、書物でエルフが人を避けていると知ってがっかりしていたんだ。
それが、まさかうちの家を頼ってくるとは。
「それは驚いたな。エルフに保護を求められるのは嬉しいことだが、どうして当家なんだろうな?」
「はい、どうやら当家で保護をしたドワーフたちの話が伝わっているようでございます」
「そうか、彼らは連絡を取り合っているのか。
何にしても、頼られたからには助けないといけないね」
数日後、エルフたちが館にやってきた。
父上の指示で僕も同席している。
応接室に入って来た彼らは被っていたフードを脱ぎ、顔を見せた。
七月に入り、暑さは厳しくなってきている。
それでもフードを被っていたとは、よほど顔を見せたくなかったんだろうな。
エルフたちは金髪碧眼で、一人だけ白銀色の髪に深い翠色の瞳をしていた。
聞いていたとおり、耳が長い。
そしてドワーフと違って、ほっそりして手足は長い。
顔立ちは整っていて、確かに美しい種族だ。
「私がこの地を預かるセオドア・フェアチャイルドです。
樹海を抜けてきたとのこと、大変な旅路であったでしょう」
「族長の娘、ルーセリナと申します。
この度は私たちを受け入れて頂き、ありがとうございます」
白銀の髪のエルフは族長の娘だった。
ルーセリナによれば、樹海の奥のエルフの里も魔物の数が増えて来て防ぎ切れなくなり、ドワーフと同じように里を捨てざるを得なかったようだ。
「なるほど、苦労されたようですな。
人族を避けるエルフに頼ってもらったことは嬉しく思います。
この地で安心して暮らしてもらえるよう、できるだけのことはしましょう」
「深く感謝いたします」
「ところで、ルーセリナ殿は族長の娘とおっしゃったが、族長はどうなさったのかな?」
「樹海の奥から逃げてくるときにはぐれてしまいました」
「そうですか……。樹海の奥からここまで大変な旅だったようですね。
つらいことを聞いてしまい、申し訳なかった」
「いえ、お気遣いありがとうございます」
「さて、ここはアルビオン王国西部の辺境です。
田舎ですが、それゆえ土地はたくさんあります。
住みたい場所について希望を言ってもらえれば、それに合う場所を探しましょう」
「幸いなことに息子のウィルは生産スキルで家を建てられますから、
あまりお待たせすることなく住まいも用意できると思います」
「いろいろとご配慮いただき、ありがとうございます。
それでは、お言葉に甘えて私たちの住む場所について、一つお願いをしても良いでしょうか?」
ルーセリナによれば、人族にはエルフをさらって売ろうとする者がいるので、一族には人族を怖がる者もいるようだ。
そこで、町から少し離れた場所の森の中に隠れ里を作りたいというのがエルフたちの願いだった。
「樹海から逃げてきた私たちを受け入れて頂いたのに勝手なお願いで大変恐縮なのですが」
「いや、人族の中にエルフをさらって売る者がいたことは私も聞き及んでいます。
この領内は比較的安全ですが、エルフがいることが噂になれば、外から悪い者たちがやって来ないとも限りません。ご希望どおりにしましょう」
「本当にありがとうございます」
ルーセリナは頭を下げた。




