第24話 兄上と生徒会
王都の学園が夏休みになり、エディ兄上が帰省してきた。
「今年も麦が不作だから王都ではみんな暗い顔をしているんだ。それなのにうちは豊作と聞いて驚いたよ。父上が手紙で教えてくれたけど、ウィルが乾燥に強い麦を作ったそうだね」
「ええ、ウィルお兄様は凄いんですよ」
「いやいや、たまたま樹海で乾燥に強い野草を手に入れて、運よく乾燥に強い麦を作れたんです」
「それは謙遜じゃないかな。運だけでできることじゃないよ」
「うふふ、凄いでしょう。みんな生産スキルのことをよく分かっていなかったのよ。
それに、こうして並ぶとウィルちゃんはエディちゃんと同じくらい格好良いわね。まあ、お母さんは以前から分かっていましたけど」
母上が僕を見る目はたぶん曇っている。
でも、どの子も等しく愛してくれていることには本当に感謝だ。
工房の充実ぶりに兄上は感心してくれて、ドワーフの弟子がいることには驚いた。
兄上のほうも学園生活は順調で、この春から生徒会に入り、副会長をしているらしい。
「エディ、手紙でも知らせてもらっていたが、生徒会の副会長になるとは父親としても誇らしいよ」
「ありがとうございます。身に余る大任ですが、やりがいはあります」
エディ兄上は生徒会役員に抜擢されたことで、多くの貴族の子弟たちとの人脈も築きつつあるようだ。
「知り合いは増えたから、学園に戻ったらウィルの自慢をさせてもらうね」
そして兄上は生徒会の仕事があるということで、慌ただしく学園に戻って行った。
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ノーザンフォードから馬車に乗って、王立学園に戻って来た。
夏休みに久しぶりに帰省したが、あまりゆっくり家にいられなかった。でも家族の元気な顔を見られて嬉しかった。
学園に戻り、寮の自室に荷物を降ろすと、すぐに校舎に向かう。
とりあえず王都に戻った挨拶をしよう。
『生徒会室』と書いたプレートのある重厚な木の扉を開けると、部屋の中には会長と書記がいた。
「お帰りなさい、エドワードさん。領地の様子はどうでしたか?」
「会長、ただいま戻りました。領地は豊作でしたよ」
「王国の各地は旱魃で不作なのに、フェアチャイルド領は豊作だったの?」
「ええ。実は弟のウィリアムが乾燥に強い小麦を生産スキルで生み出したんです。我が弟ながら凄い才能ですよ」
「生産スキルでそんなことができるとは寡聞にして知らなかったわ」
「私も知りませんでした。これまで私たちは剣術スキルや魔法スキルばかり見て、生産スキルの良さに気付いていなかったのだと思います」
会長は少し考えてから頷いた。
「そうね、貴方の言うとおりなのでしょう。剣や魔法では食料は増やせない。私たちは認識を改める必要があるわね」
「副会長の弟さんは凄いですね。会長のおっしゃるとおり、私たちは認識を改めて生産スキルの可能性をもっと探るべきですわ」
会長も書記もウィルの生産スキルの凄さを分かってくれたようだ。
「生産スキルの可能性は大きいですよ。なにしろウィリアムにはドワーフの弟子がいますからね。」
「弟さんの弟子にドワーフがなったんですか? それはまた前代未聞ですね」
書記は目を丸くして驚いた。才媛と名高いこの娘が驚く姿はレアだ。
「そうね。ところで、そんなに優秀な弟がいると心配にはならないのかしら?」
「ははは、何を心配するというのです、会長。ウィルはとても優しくて才能に溢れる、私の自慢の弟です。私としては、優秀な弟に恥じないように精進するのみですよ」
「余計なことを聞いてしまって悪かったわ。優秀な身内を警戒するのではなく誇りに思い、自らも努力しようとする貴方の姿勢はとても素晴らしい」
「王女殿下のお褒めに預かり、光栄です。しかし、貴族とは人を統べるもの。自分より優秀な者にいちいち嫉妬していては良き領主になどなれますまい。
まして守るべき自分の弟に嫉妬するなど論外。特に褒められるようなことではないと思いますが」
実は生徒会長は第三王女殿下だ。
「いいえ、そう言い切れる貴方は貴重な存在よ。他の貴族にも見習ってほしいわ」
「そうですよ。私、不覚にもキュンとしちゃいました。先輩、私をお嫁さんにすることを考えませんか?」
「南の公爵家令嬢にして、頭脳明晰で一年生なのに生徒会書記をしている君を娶るのは、少し畏れ多いな。そもそも辺境伯であるうちに嫁ぐのは家格の点で難しいだろうに」
アルビオン王国では公爵の下は辺境伯だから、家格は一つしか違わない。だが公爵家は南と北に二つしかなく、王家との血のつながりも濃い。
ときに王家の代理として行動することもある公爵家は他の貴族とは一線を画していて、辺境伯家とは家格が二つ違う感覚だ。
だから公爵家の令嬢は王家かもう一つの公爵家に嫁ぐことが多い。アルビオン王家と血がつながっていることから、他国の王家に嫁ぐこともある。
「家格のことを持ち出すなんて、減点です」
聡明にして因習を嫌う公爵令嬢には嫌がられてしまったかな。この子は前例を重視する保守的な発言を好まない。
王女が伯爵家に嫁いだ例もあるらしいから、あり得ないわけではないし、公爵令嬢はとても魅力的な女性だ。
だが、あまり身分の高い娘を娶ると両親を気疲れさせてしまう。
それに私は剣術スキルの鍛錬に打ち込んでいたいから、結婚を考えるのはまだ先のことだ。




