第22話 夏至祭
連日、各地から収穫した麦が運び込まれて領都ノーザンフォードは賑わいを見せている。
そんなある日のこと、朝食の席で母上が宣言した。
「今年は夏至祭を盛大にやるわよ!」
「はは、何だか気合が入っているね」
「うふふ、去年は不作で賑やかな祭りができませんでしたからね」
この辺りでは冬小麦は六月に収穫されることもあり、太陽に感謝する夏至祭は収穫祭を兼ねて行われる。
去年は不作だったのでお祭りをする雰囲気にならず、夏至祭はひっそりと行われた。
夏至祭は収穫を祝う祭りだけれど、盛大に行うことができれば、他にいろんな意味があるようだ。
以前、家令のスミスに夏至祭のことを聞いたら、「夏至祭を盛大に行えれば各地から人が集まりますから、伴侶を見つける機会にもなるのですよ」と教えてくれた。
確かに、この世界では普段は自分の町や村を出ることがない。各地から人が集まる祭りは若い男女が出会う機会にもなるというのは納得だ。
今年は盛大に夏至祭を行うことを父上が布告すると、ノーザンフォードの街は湧きたった。
街に出ると、祭りの話題一色だ。
「やったあ! 今年は賑やかな夏至祭があるぞ」
「たくさん美味しい物を食べたい」
「今年こそいい人を見つけなくちゃ」
祭りにはそれぞれの思いがあるみたいだけれど、喜ぶ気持ちは一緒だ。
街の中心の大広場では、外側をぐるっと取り囲むように大工さんたちが屋台を建て始め、祭りの準備は進められていく。
今年は収穫祭を兼ねて盛大に夏至祭が行われると聞いて、周辺の町や村からも人が集まって来た。
ノーザンフォードの宿屋はどこも満室になりそうだ。
いよいよ夏至祭当日になった。
ノーザンフォードの街の中心にある石畳の大広場は集まった人で一杯になり、熱気が溢れていた。
大広場の真ん中には、石造りの大地母神の像が建てられている。
この国では、創造神である女神は大地の恵みの神としても崇拝されている。
そういえば、転生してからは神様の言葉を聞くことはなかったけれど、ときどき教会に行って感謝の祈りをしているんだ。
夏至祭では、女神像の前にフェアチャイルド家の家族が並ぶのが慣例だ。
その中にはテオもいる。
テオは「私はご家族の一員ではありません」と言って尻込みしたけれど、母上が「テオも家族同然なんだから」と言って押し切った。
その母上は、いつもと違う祭礼用の衣装に身を包んでいる。
白い布を重ねたゆったりした衣装で、頭には花の冠を被っていた。
どことなく前世で見たギリシャ時代の服装に似ている。
母上は女神像に向かってゆっくり歩いて行く。
やはり白い服を身にまとった教会のシスターたちが母上の後ろに従っている。
母上の手の中には、今年収穫したばかりの小麦の穂がある。
収穫したものを神様に捧げるのは、代々の辺境伯夫人の役割だ。
夏至祭の主役は辺境伯夫人だと言っていい。
いつも笑顔の母上も、このときばかりは真剣な表情をしている。
普段の明るく楽しい雰囲気の母上とは別人みたいだ。
普段は結っている長い銀髪を今日は後ろに流している。
ちょうど風が吹き、綺麗な銀髪がふんわりと舞い広がった。
「メアリー様、なんて素敵なの」
「相変わらずお美しい!」
領民たちから感嘆の声があがる。
小麦の穂を両手で捧げ持ち、母上は女神像の前の祭壇に進み出る。
シスターたちも、後ろに控えて並んでいる僕たちも片膝をついた。
「母なる女神よ、あなたの恩寵をもって、大地から豊かな実りを得ることができました。
太陽と大地の恵みによって、我らが生を繋いでいることを感謝いたします」
「ここに謹んで、今年収穫した麦の穂を捧げます」
母上は小麦の穂を女神像に捧げた。
ちょうどそのとき、雲間から一筋の陽光が差し込んだ。
陽光を浴びた母上は一段と美しく、神々しくさえ見えた。
広場に集まった領民たちも一斉に目を閉じて祈りを捧げる。
しばらくしてみなが顔を上げる頃、父上が宣言した。
「さあ、祭りを始めようぞ!」
「「「「おお!」」」
領民が大歓声で応えた。
母上も、いつもの茶目っ気のある笑顔に戻っている。
待ち構えていたように街中で音楽が一斉に鳴り響いた。
笛やリュートの音色が流れ始め、太鼓を叩く音も鍛える。
街のあちこちで、音楽にあわせて踊り始める人もいた。
大広場を囲むように並んだ屋台では、売り子が客を呼び込もうと声を張り上げている。
屋台の前でぎこちない雰囲気で話している二人は出会ったばかりなのかな。
みんないい笑顔をしている。
お祭りって良いね。




