第21話 実りの季節
樹々の緑が色濃くなり、夏が近づいて来た。
いよいよ小麦を収穫する季節だ。
僕のつくった麦は順調に育っていると聞いている。
でも自分の目で麦畑を見たいと思い、ノーザンフォードの周辺の農場に行かせてほしいと父上に頼んだんだ。
父上の了解は得たけれど、リアムが同行することになった。
領内の治安は良いのに過保護じゃないかな。
うちを出発すると、ノーザンフォードの街を抜けて、王都につながる街道に出た。
馬車に乗って、でこぼこの道をひどく揺られながら進む。
舗装されてないのは仕方ないとしても、もう少し平らな道にできるといいな。
街道の両側には家や畑がぽつぽつとある。
しばらく進むと、前方に小高い丘が見えてきた。
丘の向こうには麦畑が広がっているそうだ。
ちゃんと麦は実ってくれているだろうか?
ドキドキしながら、丘を上っていく。
そして丘の頂上に着いたところで馬車を降りた。
視界が広がったところで見渡すと、辺り一面に黄金色の小麦が実っていた。
初夏の風に吹かれ、麦の穂がさざ波のように揺れる。
「良かった、ちゃんと実ってくれた」
ほっとしたら力が抜けてしまって、地面に座り込む。
「ウィリアム様の小麦は素晴らしいですな。
去年は不作でしたから、実りの喜びもひとしおです」
リアムは、座り込んだ僕の隣に立って、風に揺れる小麦を感慨深そうに眺めていた。
その数日後、いつものように家族揃って朝食をとっていると、家宰のスミスが興奮して飛び込んできた。
「旦那様、今年は領内のどこも豊作ですぞ!」
それは嬉しい知らせだ。
「ああ、申し訳ございません。ご家族の朝食を邪魔してしまいまして」
「いや、構わないよ。良い知らせは早い方がいい」
父上は微笑んでスミスの謝罪を制止した 。
「それにしても、旱魃が続いているのに領内のどこも豊作とは素晴らしい。
これもウィルのお陰だ。本当によくやってくれた」
「流石ウィルちゃんだわ。お手柄ね」
「お兄様、凄いです」
家族や周囲の人が喜んでくれると温かい気持ちになる。
元の世界だとこんなに喜ばれたり、褒められたりしたことはなかった。
小麦がちゃんと実ってくれて本当に良かった。
一方、王国の各地では旱魃のために今年も不作だったようだ。
昨年から二年続けての不作なので、影響は大きいだろう。
ただし、お隣のカーディフ伯爵領は、父上が余った新種の小麦を分けていたので、旱魃の影響は小さかったようだ。
カーディフ伯爵からは、おかげで二年連続の不作にならずに済んだと御礼があったと、父上は嬉しそうだった。
レティも喜んでくれているかな。
今年は豊作だというニュースはあっという間に広まり、領内は沸き立った。
街を行く人たちの表情も明るい。
「今年は豊作らしいぞ!」
「良かったあ。二年続けて不作だとどうなるかと思った」
ノーザンフォードの市場に行くと、露店の売り子が「豊作記念で二割引きだ!」などと威勢の良い声を上げている。
工房に行っても、豊作の話で持ち切りだった。
「ウィリアム様はやはり凄いな」
「私たちは凄い人のもとで働けて幸運ね」とか、職人たちが盛り上がっている。
あまり褒められると照れ臭い。
工房と言えば、嬉しかったのはテオの成長だ。
ずっと練習を続けた結果、生産スキルで僕の作った麦と同じ麦を産み出せるようになったんだ。
「できました!」と報告してくれたときは僕も嬉しかった。
新しい麦を創り出すことはできなくても、僕の作った新種の麦と同じものなら作れるようになったらしい。
次に新しい品種を生み出すときは、きっと力になってくれるだろう。
やはりテオには生産スキルの才能がある。
ドワーフなのに鍛冶が苦手なのがコンプレックスのようだったけれど、それを補ってあまりある才能だと思う。
領内の各地では順調に麦の刈り取りが進み、各地から小麦を満載した荷車がやって来る。
運び込まれた麦の一部は税としてフェアチャイルド家に納めてもらうけれど、多くはノーザンフォードの市場で売るために運び込まれる。
お金に換えて、領都じゃないと手に入らないものを買って帰るらしい。
そんな人たちが集まり始めて、ノーザンフォードは今年一番の賑わいを見せていた。
豊作だから、みんな笑顔だ。
たくさんの人たちを笑顔にできるなんて、生産スキルは思った以上に良いものだ。




