第20話 12歳の誕生パーティー
春になり、僕は十二歳の誕生日を迎えた。
父上が誕生パーティーを開いてくれたら、たくさんの客が来て驚いた。
これまでは親しい人しか来なかったのに。
どうやら工房を設立したことや乾燥に強い麦を作ったことが噂になっているらしい。
ただし、辺境伯家の館の広間に大勢の客が来たけれど、僕の見た目が変わったせいで戸惑う人が多かった。
「あのエドワード様に似た貴公子は、どなただろう?」
「主賓のウィリアム様はどちらかしら?」
うん、自分でもまるで別人だと思ったからね。でも、
「ウィル、あなた随分痩せたわね」
レティは迷わずに声をかけてきた。
「レティは僕だって分かるのかい?」
「痩せたぐらいで私がウィルを見間違えることはないわ」
そうなんだ。ちょっと嬉しいかな。
そう思っていると、肉食獣のような視線が注がれたと思ったら、貴族の女の子たちが押し寄せてきた。
「「ウィリアム様、お誕生日おめでとうございます!」」
慌ててぎこちなく対応していたら、「いつまで話していらっしゃるの、次は私よ」とか争っているのを見てしまい、引いてしまう。
「まったくもう。みんな、ウィルが活躍して格好良くなったら手のひらを返しちゃって。
恥ずかしくないのかしら。はいはい、ウィルが引いているじゃないの。
それくらいにしておいたらいかが?」
レティが近づいてくると、家格でも見た目でも敵わない貴族の娘たちは退散していく。
「ウィル、改めて誕生日おめでとう」
「ありがとう、レティ」
レティのお陰で女の子たちから解放された。
ほっとして紅茶を飲みながら話す。
「ところで、どうやってそんなに急に痩せたのかしら」
「うん? 身体強化魔法を使っていたら痩せたんだよ」
「あらそう? 身体強化魔法が使えるようになったの。
生産スキルは思ったよりも幅広いのね」
「私もご挨拶してよろしいでしょうか?」
しばらくレティと世間話をしていると、レバント商会の会頭のアレックスさんがやってきた。
貴族たちの挨拶が一段落するのを待っていたようだ。
レティは話の邪魔にならないようすっと離れていく。貴族らしい洗練された動きだ。
「ウィリアム様、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます。レバント商会には工房の家具や鞄を売ってもらって、お世話になっています」
「いえいえ、素晴らしい品質の品物を扱わせて頂き、こちらこそ有難く思っております。それに新種の小麦を生み出されるとは、ウィリアム様の生産スキルは規格外ですね」
「いやいや、運がよかったんですよ」
「ウィリアム様は謙虚ですね。ところで、今日は私の子どもも一緒に来ているのですが。ご紹介してよいでしょうか?」
「ええ、もちろんです」
アレックスさんの後ろから現れたのは、文字通り絶世の美少女だった。
大きくて潤んだ瞳を長い睫が縁取っている。
すっと通った鼻筋にほっそりとした顎。可憐な唇につい目が吸い寄せられる。
神の造形美とはこのことか。
思わず立ち尽くしていると、アレックスさんが苦笑しながら紹介してくれた。
「息子のオリヴァーです」
えっ、息子? 聞き間違いかな?
「アレックス・レバントの子、オリヴィアと申します」
オリヴィアはむっとした顔を父親に向けると、笑顔で挨拶をしてきた。
そうだよね、息子じゃなくて娘だよね。
「ウィリアム様は優れた生産スキルの使い手だと聞いて、父に頼んで連れてきてもらいました」
少し低くて落ち着いた声だ。心地よく耳に響く。
「はじめまして、ウィリアム・フェアチャイルドです」
「ウィリアム様の作られる家具や鞄は素晴らしいです」
「何より、新種の小麦を産み出されるとは規格外の才能です。
きっと今年の夏には各地から購入希望が殺到するでしょう。
我が商会でぜひ扱わせて頂きたいと考えています」
「あはは、評価してくれてありがとう。
でも収穫してみないと分からないよ」
「いいえ、私は成功すると確信しています。
ドワーフの家をお建てになった膨大な魔力量も凄いのですが、ウィリアム様の発想力は天才的です」
「いやいや、ほめ過ぎだよ。
それにドワーフの家のことなんてよく知っているね」
「ウィリアム様に興味を持ちましたので、情報を集めさせて頂きました。
そして、調べれば調べるほど、ウィリアム様の才能は破格だと分かりました」
「我が商会をぜひよろしくお願い致します。
こうしてお近づきになれたのですから、私個人としても、ぜひ親しくさせて頂きたいと思っています」
僕のもとを去ったオリヴィアは、なぜか機嫌の悪くなっている幼馴染のレティに近寄って行った。
そしてオリヴィアが耳打ちすると、レティは目を丸くしてひどく驚き、それから少し言葉を交わすと、目に見えてレティの機嫌がよくなった。
一体どんな話をしたんだろう?




