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第19話 雪の降らない冬

※後半は第三者視点です。


 父上が領内に布告を出し、乾燥に強い新種の小麦を開発したので蒔くように農民たちに伝えた。

 そしてノーザンフォードの工房に積み上げた小麦の袋は荷車に載せられて、フェアチャイルド領内各地に運ばれていった。

 領内の治安は良いけれど、他の領地から食い詰めてやってくる者もいて、盗賊がいないわけじゃない。

 だから小麦の袋を積んだ荷車は騎士たちが護衛してくれる。

「ウィリアム様が作り出された小麦は旱魃による飢饉を防いでくれる大切なものです。賊に奪わせはしません。」

 騎士たちは張り切ってくれている。

 その後、秋の終り頃になってようやく雨が降ったものの、いつもの年に比べると雨量は随分少なかった。


 そして木枯らしが吹いて、冬が訪れる。

 冬は厳しい季節だけれど、家族と過ごす季節でもある。

 暖炉の前で家族が揃って温かい紅茶やスープを飲むと、心まで暖まる気がする。

 今年はそのメンバーにテオも加わっていた。

 テオの両親は樹海から逃げるときにはぐれたと聞いている。でも父上も母上も、生きている可能性はとても低いと考えていた。樹海は奥に行くほど強大な魔物がいる。いくらドワーフが樹海を良く知っているとしても、はぐれてしまったら無事でいられないだろうと。

 だからテオは家族同然に扱うのだと両親は言った。

 両親のそういうところは尊敬している。

 テオは最初は凄く恐縮していたけれど、少しずつ慣れてきた。

 遠慮して端の方にはいても、一緒に暖炉の火にあたり、温かい飲み物を飲んでいる。

 特に母上はテオによく話しかけていて、テオも笑顔で応えている。

 僕も兄弟みたいに思ってほしいといったら師匠は師匠だと言われてしまったけれど、もっとテオと親しくなりたいと思っている。

 

 ところで、王国の北部ほどではないが、西部も雪が積もる。

 雪ダルマを作って遊ぶ子供たちは、冬の風物詩の一つだ。

 でも今年は雪が降らなかった。

 乾燥した天気が続き、そのせいで火事も増えている。

 父上は春のことを心配していた。

 「雪の害がないのはいいんだが、これでは春の雪解け水も少なくなる。このままでは来年の旱魃はもっと厳しいものになるかもしれない。」

 「お兄様の新しい小麦があって良かったわ。」

 「どうかな、大急ぎで作ったものだから。ちゃんと実ってくれると良いんだけど。」

 「うふふ、ウィルは十分頑張ってくれたわ。もし結果が出なくても、それは大人たちの責任よ。」

 「そのとおりだ。ウィルはよくやってくれた。」

 やはり父上も母上も優しいな。僕が責任を背負いこまないように気を遣ってくれる。

 旱魃になるリスクが高まっている以上、新しい小麦が無事に育つことを祈るばかりだ。


於:樹海の奥

 樹海の奥に暮らす者は、ドワーフ以外にもいる。

 だが、その者たちは危機を迎えていた。

 「魔物がこれ以上増えると、里を護り切れななくなるのでは。」

 「ああ、この冬を乗り切れるだろうか。」

 「だが我らには使命がある。何としても世界樹をお護りせねば。」

 「ああ、予言のとおり救世主様が現れてくれないだろうか。」

 確かに使命は重いが、このままでは一族が滅びかねない。

 彼らの族長は、いざとなったら世界樹の若木を抱えて樹海を逃げ出すしかないのではないかと考え始めたいた。

 最近、ドワーフの一族が故郷の山を魔物から守り切れなくなり、樹海を脱出したと聞いた。

 ただ、樹海の向こうは人間の支配する土地。

 人間は強欲で信用できない。

 逃げたところで大変だろう。

 ドワーフたちは無事だと良いが。

 「樹海の向こうに行っていた者が戻ってきました。」

 樹海を抜けるには強大な魔物のエリアを抜ける必要があるが、気配を隠す魔法を上手に使える者なら、気付かれずに抜けられる。

 彼らは人族と関わることをできるだけ避けていたが、樹海で手に入らない物を得るため、ときどき正体を隠して物々交換に行っていた。

 「おお、よく戻ったな。ドワーフの連中は無事だったか。」

 「はい、とても元気そうでした。」

 「着の身着のままの逃避行だったはずだ。さぞ苦労しているだろう。人族につかまって酷い目に遭わされていないといいんだが。」

 「いや、それが人間の領主に助けてもらって家と食料を貰い、税も免除されているとのことです。」

 「人族にそんな親切な領主がいるのか?」

 「私も驚きましたが、実際にドワーフたちが暮らす家で暖炉にあたり、温かいスープを一緒に飲みました。」

 そんなことが本当にあるのか?

 もし本当なら、我らも決断したほうが良いのだろうか。

 族長は考え込んだ。



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