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第18話 新種の小麦

 何度か試してみたけれど、生産スキルで麦を品種改良することはうまくいかない。

 悩んでいるうちにお昼になったので、食堂に行く。

 父上と母上は用事があって外出していて、ランチはソフィと二人だった。

 「こんにちは、お兄様。」

 「こんにちは、ソフィ。」

 ソフィは少し疲れているように見えた。

 「疲れたみたいだね、ソフィ。」

 「聞いてください、このところ急に勉強の量が増えたんです。」

 最近になってソフィは頭の良さをメキメキ発揮するようになり、家庭教師が気合を入れていると母上から聞いていた。

 「ソフィは優秀だから、先生も張り切っていると聞いたよ。今日は何を勉強したんだい?」

 「今日は生き物の勉強をしました。親の性質がどのように子に受け継がれるのかを教えて頂いたんですけど、なかなか難しくて。」

 おお、メンデルの遺伝の法則か。

 この世界でも知られているんだな。

 うん?遺伝?

 そういえば麦の性質を決めているのは遺伝子だよな。

 

 ランチの後で自分の部屋に戻り、野草と麦を並べた。

 野草の持つ乾燥に強い遺伝子を麦の遺伝子に組み込むイメージを試してみることにした。

 そのイメージを強く思い浮かべて、生産スキルを発動する。

 暖かい光が消えた後、小麦が現れた。

 祈るような気持ちで鑑定する。

 『冬小麦(新種):乾燥に強い』

 やった!乾燥に強くなっている。

 これが偶然じゃないことを確認するために、野草の種と小麦の種を使ってもう一度生産スキルを発動した。

 うん、大丈夫だ。

 今度も乾燥に強い小麦ができている。

 嬉しくなって部屋を飛び出した。

 ソフィの部屋をノックする。

 「お兄様、どうしたの?」

 「ソフィ、生産スキルで新しい小麦が出来たんだ!ソフィのお陰で思いついたんだよ!」

 僕はソフィの手を取って、くるくると舞い始めた。

 「ふふ、何だか分かりませんけど、良かったですわ。」 

 それにしても、遺伝子配列も分からないのに遺伝子の組み換えができるなんて、生産スキルは凄いな。


 新しい小麦を持って父上の執務室を訪ねた。

 「おや、どうしたんだい?ウィル。自分から執務室に来るなんて珍しいね。」

 「お忙しいところすみません、父上。急いで報告したいことがあるんです。」

 父上に生産スキルで乾燥に強い小麦を産み出したことを説明した。

 「おお、乾燥に強い麦とは。ウィルの生産スキルは凄いね。ありがとう、旱魃に苦しむ農民たちの喜ぶ様子が目に浮かぶようだよ。」

 父上はとても喜んでくれた。

 「ぜひウィルの新しい小麦を領内に植えたい。来月くらいには種を蒔きたいんだが、どれくらいの量を作れそうかな。」

 「そうですね、そんなに魔力を使った感じはしませんでした。樹海に行って野草を追加で採ってきて材料を確保すれば、それなりの量は作れると思います。」

 「それは心強い。大変だと思うけど、よろしく頼んだよ。」

 翌日、樹海で例の野草を採った。また騎士団長のリアムを数名の騎士が同行してくれた。幸いたくさん生えていたので、収納魔法で大量に持って帰ることができた。

 それからは、僕はひたすら乾燥に強い小麦を作った。

 テオや工房の職人たちにもトライしてもらったんだけど、うまくイメージできないみたいで麦は作れなかった。

 遺伝子を組み合わるイメージを浮かべるのは、この世界の人には難しいのかもしれない。

 結局一人でやるしかなくて、工房はテオと職人たちに任せて、連日魔力切れぎりぎりまで作った。一月くらい頑張ったら、領内に配るのに十分な量を作ることができた。むしろ少し作り過ぎたかもしれない。

 新種の麦を詰めた布袋の山を見ると、自分でも頑張ったなと思う。

 でも、すごく疲れた。

 もうこんなに頑張りたくない。やはり働きすぎてはいけない。

 しばらく、のんびり休もう。


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