第14話 騎士団宿舎の改修
「実はうちの騎士団の宿舎が随分古くなっていてね。そろそろ修繕をしないといけないんだ。」
騎士団の宿舎は三階建ての大きな建物で、ノーザンフォードのランドマークの一つに数えられる。
そういえばだいぶ古くなって痛んでいる様子だった。
「領内の大工たちに頼もうと思ったんだが、騎士たちはウィルがドワーフたちの家を建てたことを知っているから、できれば自分たちの宿舎も修繕してほしいと言ってきたんだ。」
そうなんだ。騎士たちが期待してくれるのは嬉しい話だ。
「分かりました、父上。」
「おお、引き受けてくれるか。よろしく頼んだぞ。」
初めて父上から頼まれた仕事だから、気合が入る。
ただ傷んだ所を直すだけではつまらないよね。この機会に騎士団の要望を聞いて、可能な限り改築しよう。
「リアム、騎士団の宿舎を修繕するよう父上から頼まれたんだ。この機会に改善できる部分は改善したいと思うんだけど、騎士たちから何か要望は出ていないかな?」
「いえ、修繕してもらえるだけで十分ですよ。まあ、もし風呂があると嬉しいと夢を語る者もおりますがな。」
そうか、お風呂か。
確かに訓練で汗をかいた後は風呂に入りたいよね。
でもこの世界では風呂は贅沢品だ。
今は、たらいで汲んだ水で汗を流しているらしい。
よし、何とか風呂を作ってあげよう。
翌日からテオにも手伝ってもらって、宿舎の傷んだ所を直していく。
木が黒ずんだり凹んだりしているところは新しい木材に取り換えて、石造りの部分で欠けた所は新しい石材で埋める。
生産スキルだと作業は早い。しかもテオは十分戦力になってくれる。
三階建ての大きな建物だけど、一週間もたたずにひととおり修理できた。
さあ、後は風呂だ。
まずは一階の食堂の隣に風呂場を増築しよう。
木と石を用意して、生産スキルを発動する。
そして部屋ができたら内装だ。
床は石じゃなくてタイル張りにしたいな。
最近になって、ドワーフたちはタイルを焼き始めていた。だから頼んで材料としてもらってきた。
お金は要らないと言われたけれど、そうはいかないのでちゃんと払ってきた。
タイルの隙間は漆喰で埋めていく。
漆喰の原料は消石灰で、消石灰は石灰石を焼いて水を加えたものだ。
前世で見た何かのドキュメンタリーで説明していたのを記憶していた。
石灰石は樹海で採取できた。近くの川で水を収納したら、あとは生産スキルで仕上げよう。
出来上がりの床をイメージして、集中して生産スキルを発動する。
温かい光が消えると、そこにはタイル張りの床が現れた。二色のタイルを組み合わせて、騎士団の紋章を描いている。
「師匠、凄く綺麗な床ですね。タイルで紋章を描くというアイデアも斬新です。」
テオが褒めてくれる。
うん、可愛い弟子がいるとモチベーションが上がるなあ。
浴槽の仕上げには大理石を使う。残念ながら樹海の浅い所では大理石は見つからなかったので、商人から購入した。
父上から必要な材料は買っていいと言われている。
大理石は高かったけど、他の材料は自力で用意したから予算には余裕がある。
材料を揃えて、再び生産スキルを発動する。
暖かい光が消えると、高級感あふれる大理石の浴槽が現れた。
うん、イメージどおりだ。
最後に、やはりドワーフから売ってもらった鉄を使って、薪を燃やして温める風呂釜を作った。
さて、騎士たちは喜んでくれるかな。
修理が終わったと連絡すると、領内の宿屋や実家に泊まっていた騎士たちが集まって来た。
「おお、随分と綺麗になりましたな。」
建物の外観も内装も綺麗になっているのを見て、リアムが感嘆した。
「あのボロ屋が見違えるようです。」
「これで隙間風に悩むこともなくなります。」
「ウィリアム様、ありがとうございます。」
騎士たちが次々に感謝してくる。
うん、喜んでもらえて良かった。
「リアム、ちょっとしたサプライズもあるんだ。一階の奥を見てもらえるかな。」
「サプライズですか?こんなところに部屋は無かったはずですが。」
大食堂の奥に増築した箇所の扉を開けたリアムは、呆然と立ち尽くした。
「こ、これは。」
「団長、どうしたんですか?」
後に続いてやって来た騎士たちも、扉の向こうを見ると言葉を失った。
リアムは嬉しいような困ったような顔で振り向いた。
「ウィリアム様、こんな立派な風呂を作って頂けたのは大変ありがたいのですが。これでは辺境伯様の館の風呂より立派になってしまっているのではないでしょうか。」
ああ、言われてみればそうかも。
父上には別に騎士団宿舎の風呂のほうが立派で構わないと言われたけれど、うちの風呂もタイル貼りの床と大理石の浴槽に取り換えた。
少しやり過ぎてしまったけれど、騎士たちの士気は上がったようだから、良かったかな。