第12話 身体強化魔法と変身?
樹海に着くと、馬から下りて、騎士たちに囲まれて森の中を歩いて行く。
思ったよりも陽射しが入っていて、明るい。
「もっと鬱蒼として暗いのかと思ったよ。」
「樹海の奥は確かに暗いのですが、浅い所はこんなものです。それでも魔物が出ることはありますから、油断は禁物ですぞ。」
「そうなんだね。勝手に奥に行ったりしないよう気を付けるよ。」
周囲の物を鑑定しながら進む。
しばらく進むと、良さそうな木があったので数本収納する。
「おお、これが収納魔法ですか。便利なものですな。」
「うん、この魔法があるから自分で素材を集めようと思ったんだ。」
樹海の中は整地されていないので地面は凸凹で、木の根が浮き出していて足を取られやすく、歩きにくい。
それなのに、なぜかすいすいと歩ける。
リアムも気づいたようだ。
「おや、ウィリアム様。随分と動きが良くなりましたな。まるで身体強化魔法を使ったようです。」
「身体強化魔法は使えないはずなんだけど。」
しばらく進むと、ボキっと音がして目の前に何かが降ってきた。
「うわっ!」
瞬時に身をかわす。
どうやら枯れた木の枝が落ちてきたようだ。
振り向くと、リアムが抜刀して枝を切り払っている。
「大丈夫ですかな?いや、私が庇わずとも、ご自身で避けられたようですな。」
リアムの動きは早すぎて見えなかった。流石だ。
それにしても、どんくさかった僕がこんなに機敏に動けるとは。
これは本当に身体強化魔法を使えているのかも。
樹海を進んでいくと、たまにネズミや犬のような魔物が現れるけれど、すぐに騎士たちが倒してくれた。樹海の深いところではもっと大きな魔物が出るらしい。
いろんなものを採取しながら進む。身体強化魔法のおかげか、木の高いところの実を取りたくて登ってみたら、するする登れた。
体が思うように動くのは楽しい。
「魔力は大丈夫ですかな?」
「うーん、あまり減った感じがしないよ。」
「いや、凄い魔力量です。正直言って、驚きました。」
そうして進むうちに、不思議と気になる植物があった。
雑草にしか見えなくて何に使うのか思いつかないけど、取り敢えず収納しておこう。
結局、日が傾くまで樹海の浅いところを動き回った。
翌朝、目が覚めたら体の節々が痛み、起き上がれない。
様子を見に来てくれたリアムによれば、普通は身体強化魔法を1時間も使うと魔力が尽きそうになり、それでも翌朝起きたら酷い筋肉痛になるようだ。
それを何度か繰り返すうち、魔法が体に馴染んできて大丈夫になるものらしい。
僕は何時間も身体強化魔法を使ったから、その反動が来ているようだ。
「ウィリアム様の魔力量に圧倒されて、お止するタイミングを失ってしまい、申し訳ありません。」
「いや、リアムは悪くないよ。身体強化魔法について、もっと良く聞いてから動くべきだった。」
それにしても体がだるく、熱っぽい。
いつの間にか、うとうとしていたようだ。
目が覚めると、ちょうど母上が冷えた布を額の上に載せてくれたところだった。
「あら、ウィルちゃん、目が覚めたの。」
こんなふうに世話をしてくれるのは貴族らしくない振舞いだ。でも母上はそんなことは気にしない。少し恥ずかしい気はするけれど、母上の愛情が伝わってきて嬉しい。
「すみません、母上。身体強化魔法を使い過ぎたみたいで。思うように体が動くのが楽しくて、調子に乗り過ぎました。」
「うふふ、謝ることはないわ。貴方は年の割に大人びているから、こんなふうに子どもらしい失敗をしてくれると、むしろほっとするのよ。」
母上の言葉に安心したのか、また眠りに落ちていった。
ようやく起き上がることができたのは翌朝だった。
着替えてズボンを履こうとすると、緩くてずり落ちそうになる。
おかしいなと思いながらシャツを着ると、ぶかぶかになっている。
そして部屋の鏡を見ると………
「いったい誰だよ、これ?」
鏡にはすらっとしたスタイルの美少年が映っていた。
エディ兄上にも似ているし、母上に似て優しそうな雰囲気もある。
いや、ほんとにこれが僕?
ふっくらした頬や二重になった顎とか、たぷんと揺れるお腹はどこに行ったんだ?
朝食の席に着くと、家族も目を瞠った。
「おお、ウィル。急にスリムになったな。」
「まあ、私はウィルちゃんが格好いい男の子だって、ちゃんと前から分かってましたよ。」
「お兄様、いっそう素敵になりました。」
家族が褒めてくれるのは嬉しいんだけど、何だか複雑な気分だ。
思い出せば、あまり運動は好きじゃなかったし、料理人が作ってくれるご飯やお菓子が美味しいので、つい食べ過ぎていた。
前世と違って素朴な料理が多いけれど、新鮮な肉や野菜を使ったソテーやスープ、バターをふんだんに使ったパイとか、本当に美味しいんだ。
ぽっちゃりしているのは自分の個性だと諦めていたんだけどな。
勇者でもないのに身体強化魔法が使えるようになって、副産物で痩せてしまうとは。生産者というのも、どうも奥が深い。
苦労せずに痩せるとか、前の世界だと周囲に怒られそうだ。
神様に感謝かな。
もし続きを読みたいと思ってもらえたら、評価点やブックマークを頂けると励みになります。