第11話 これからは自分の道を
出会いがあれば別れもあるもの。
そう分かってはいるけれど。
家庭教師のエリカ先生が王都へ戻ることになった。
まだ早すぎるよ。
「まだまだ先生に教えてもらいたいことがあります。」
僕は引き留めようとした。
「いいえ、もうここで私が教えられることはありませんよ。」
エリカ先生は優しく微笑んだ。
「あのレバント商会の会頭が認めたのですから、貴方はもう立派な生産師です。ドワーフにも評価されているのは凄いことですよ。それに、もう出来栄えも自分で確認できるでしょう?」
実は最近、作った物や素材を鑑定する魔法が使えるようになり、出来上がった物の品質も分かるようになった。
「鑑定魔法が使えるのは一流の生産師だけなのです。貴方はもう自分の才能で十分にやっていけます。」
どうやら先生の意志は堅いらしい。
引き留めることは難しそうだ。
悲しそうな顔をしていたせいか、先生は珍しく僕の頭を撫でてくれた。
「ウィリアムさん、貴方は私の自慢の弟子ですよ。でも貴方の才能は特別なんです。たとえば、私は貴方が作った倉庫のような大きな建物を作ったりはできません。だから、私の影響を受けすぎず、自分の道を進んだ方が生産師として大成すると思うのです。これからの貴方の活躍に期待していますね。」
僕は、王都へ戻るエリカ先生の乗った馬車を見えなくなるまで見送った。
エリカ先生が去った。
しばらく気が抜けてしまって、ものづくりにも気合が入らなかった。
田舎でのんびり過ごすだけなら、このままで良いのかもしれない。
でも、このままずるずる暮らすと、親切に教えてくれて、僕に期待もしてくれたエリカ先生に合わせる顔がなくなる気がする。
せっかく優れた生産スキルを与えてくれた神様にも申し訳ない。
よし、これからは自分で生産師の道を進んでいこう。
そう決意した僕は、父上にお願いをした。
「父上、生産師として前に進むためには自分で素材を集める必要があります。樹海に入ることを許可してください。」
これまでは素材は領内の商人から買っていた。そのほうが楽なんだけど、本当に良いものを作ろうと思ったら素材は重要だ。
樹海は魔物が出る危険な森だけれど、良質の素材になる木が生えていて、良い皮の獲れる獣もいる。
さらに、それ以外の珍しい素材も見つかるだろう。
「樹海はまだ子どものウィルが行く場所ではないんだがなあ。」
父上は頭を振ったが、思ったほど否定的ではなかった。
「実はエリカ師から、ウィルが自分で素材を集めたいと言うようになったら、機会をつくってあげて欲しいと頼まれていたんだ。」
ああ、エリカ先生は最後まで僕の将来を気にかけてくれていたんだ。
「よし、樹海に行くことを認めよう。ただし、騎士たちに護衛してもらって行きなさい。一人で樹海に行ってはいけないよ。」
「はい、ありがとうございます。」
早速、騎士団長のリアムに騎士の同行を依頼して、次の日に樹海に出かけた。
数人の騎士が同行してくれたのはいいんだけれど…。
「団長のリアムが出てくるなんて大げさじゃないかな。僕は辺境伯を継ぐわけでもないのに。」
「何をおっしゃいます、ウィリアム様。辺境伯閣下は長男のエドワード様と同じくらい貴方を大切に思っておられますぞ。」
両親が次男の僕にも愛情を注いでくれるのはありがたい。
でも、領内最強の騎士であるリアムが付いてくるのは大げさだと思うんだ。
「いや、父上の配慮はありがたいけど。樹海の浅い所に行くだけだよ。」
「はっはっは、それでも万全を期したいのが親心なのでしょう。」