第103話 エリカ先生からの贈り物
「さて、これで魔法石についても、私が教えられることはすべて教えましたよ」
「ありがとうございます、エリカ先生」
「貴方に私が教えられることは本当にもうなくなりました。その記念というわけでもないのですが、ウィリアムさんに渡したいものがあります」
エリカ先生は何もない空間から細長い箱を取り出した。どうやら収納魔法で持ってきてくれたみたいだ。
収納したままだと魔力を消耗するから、先生は普段、荷物は鞄に入れている。
ということは、この箱には相当重要な物が入っている。
「これはちょっと特殊なものですし、悪用されると困る物ですから、魔法で鍵をかけているんです」
魔法鍵は貴重な物を入れる箱などに使われるものだ。
エリカ先生は鍵を開けると、中に入っていた物を箱から取り出した。
それは……元の世界で見たあるものに似ていた。
「先生、これは、もしかして銃ですか?」
「よく分かりましたね。これは魔法銃と言います」
「魔法銃?」
「ええ、魔法石は爆弾にしか使えないのですが、これは魔法石を入れると魔法を放つことができるものです」
「それは画期的なものですね」
「ええ、魔法銃は爆発する危険もありませんし」
そんな便利なモノがあったとは。
「ですが、今では失われた技術で作られています。これは遺跡で見つかった物で、私の師匠から貰ったものです。記念に貴方に贈ります」
「いえいえ、そんな貴重な物を頂くのは恐縮すぎます。そもそも先生にはお世話になってばかりですし」
「いいえ、私が使うことはもう無いでしょうし、ウィリアムさんが持っていたほうが役に立つと思います」
「陛下から南の未開地を領地にすると聞きました。危険な土地ですから、これを持って行ってほしいのです」
先生は未開地の探索のことを知っておられたのか。
そう言ってもらえると、ありがたく受け取るほかはない。
「エリカ先生、ありがとうございます」
僕は魔法銃を捧げ持った。
「大切に使わせて頂きます」
「この銃が貴方を守ってくれることを願っています。それから、貴方は頑張り過ぎる傾向がありますから、体に気を付けて、あまり無理をしないようにね」
先生の気遣いが身に沁みる。
「また王都に来たとき、時間があったら元気な顔を見せてくださいね」
「はい、ご挨拶に伺います」
僕はエリカ先生に何度も御礼を言ってから、王城の中の工房を出た。
そこから玄関まではメイドさんが案内してくれた。
王城の中は複雑な構造になっているから、たぶん案内してもらわないと迷子になる。
玄関でメイドさんに御礼を言うと、王城のスタッフが連絡してくれたみたいで、すぐにフェアチャイルド家の馬車が現れた。
王城のスタッフはみんな優秀だ。
「待っていてくれてありがとう」
馬車の御者を務める初老の使用人に声をかける。
「いえいえ、王城は家臣用の待機室も快適ですから、年を取った私にはむしろありがたいですよ」
そうなんだ。さすが王城だな。
「それじゃあ、馬車を出してくれるかい」
「はい、ウィリアム様」
走り出した馬車の窓から、僕はぼうっと王都を眺めた。
たくさんの人たちが忙しそうに歩いている。
ノーザンフォードも賑わっているけれど、のんびり歩いている人も多い。
やはり王都は都会なんだなと思う。
窓から後ろを振り返ると、遠ざかっていく王城の威容が見えた。
リンクスター城は美しいな。
でも綺麗なだけの城じゃない。王城の中に隠された工房があるとは驚いた。
アルビオン王国は歴史が長いから、いろんな秘密があるんだろうな。
秘密と言えば、エリカ先生も秘密を抱えておられた。
先生が数少ない国家生産魔法師だったことには驚いた。
そして、今回作り方を教えて頂いた魔法石は、生産スキルでできることの幅を大きく広げてくれるものだ。
取扱いの難しいものだけれど、魔法石の中身を多孔質に吸収させることで安定して簡単に爆発しないようになれば、扱いやすくなる。
そうなれば生活の道具のために使うことも可能になってくる。
危険な実験を引き受けてくださったエリカ先生の無事を祈る。
先生からは、ロストテクノロジーで作られた貴重な魔法銃も頂いた。
先生の気遣いと信頼は本当にありがたい。
僕はそれに応えていかないといけないな。
そんなことを考えているうちに、王都のフェアチャイルド家の屋敷に着いた。




