第100話 再会
「さて、将来の話はこれくらいにしようか。実はな、ウィリアム君に会わせたい人がいる」
「私に会わせたい人ですか?」
陛下の指示を受けたメイドさんがその人物を呼びに行った。
「はは、懐かしく思うのではないかな」
一体誰だろう?
やがて陛下の執務室に入ってきた人物を見て、僕は目を見開いた。
小柄な老婦人は変わらぬ穏やかな笑みを湛えている。
「エ、エリカ先生!」
「お久しぶりですね、ウィリアムさん」
「実はエリカ師は数少ない国家生産魔法師でな。王国の機密とされている特殊な物の製法を継承されているのだ」
そんなことが……。
「私が師匠から受け継いだ製法をウィリアムさんに伝えることを陛下が許諾されたのです。実は少し前に陛下からお話はあったのですけど、なかなか貴方に伝える機会がなくて」
「そうだったのですか? それなら王都の貴族たちを怖がらず、もっと早く王都に来れば良かったです」
陛下もエリカ先生も笑った。
「それにしても、またエリカ先生から教えてもらえるのですか? もう教えて頂けることはないものと思っていました」
「ふふ、ノーザンフォードを去るとき、私は『ここで教えられることはありません』と言いましたよ。王国の機密である製法は王城で継承する決まりなので、他の場所では教えられないんです」
「ウィリアムさんなら機密の継承者になる可能性は高いと思っていましたが、あのときはまだそのことを話せなくて、ごめんなさい」
「いいえ、機密を話せないのは当然のことだと思います。それより、また先生に教わることができるなんて、夢のようです」
剣と魔法の世界に生産者として転生して、いろいろ悩んでいたときに優しく生産スキルを手ほどきしてくれて、「想いを形にするスキル」だと教えてくれた恩師がエリカ先生だ。
また先生に教わることができるなんて。
嬉しくて胸がいっぱいになる。
「ではエリカ師、後は頼みます」
「分かりましたわ、陛下。ではウィリアムさん、王城の中の工房に行きましょう」
王城の中に工房があったのか。
エリカ先生の後をついていき、騎士が警備している扉を抜けると、工房に着いた。
警備も厳重で、いかにも秘密の場所という感じがする。
でも、見た目は普通の工房だ。
「さて、ではこれから魔法石の作り方を教えますね」
「魔法石ですか?」
「ええ、属性魔法のエネルギーを内包したものを魔法石と呼んでいます。石と呼ぶのがいいのかは疑問があるのですが、原料が石なのです。その魔法石を使えば、魔法スキルがなくても威力の高い魔法を使えます」
「そんなものがあるんですか!」
「ええ、まあ魔法を使えるといっても実際には魔法エネルギーを解放して爆発させることしかできないのですが」
「それは危険な感じですね」
「ええ、魔法石は少し衝撃を与えると爆発して危険ですから、製法が秘匿されているのです」
「さて、魔法石のもとになる物はこれです」
エリカ先生は鞄の中から白い石を取り出した。
ビー玉よりも大きく、野球のボールよりは小さいくらいの大きさだ。
「鑑定してもらえますか?」
「分かりました」
鑑定魔法を発動すると、「空っぽの石」と表示された。
「エリカ先生、『空っぽの石』と出ました」
「ええ、それで良いのです。この『空っぽの石』に生産スキルを発動します」
先生が生産スキルを発動し、温かい光が消えると、その後には淡く光る石が現れた。
さっきまではつや消しの白だったのに、見た目も変わった。
「さあ、もう一度鑑定してみてください」
「はい」
鑑定すると、『空っぽの石』は『魔力の器』に変化していた。
「先生、『魔力の器』に変わっています」
「ええ、何もない『空っぽの石』を素材にして、魔力の受け皿となるようにイメージして生産スキルを発動すると『魔力の器』に変化するのです。これが魔法石製作の第一段階です」
「第一段階ですか? すると、次のプロセスがあるのですね」
「そのとおりです。第二段階を経て魔法石が完成します。見ていてくださいね」
エリカ先生は『魔力の器』に変化した石に向かって集中して何かをしたようだ。
すると、淡く光っていた石は赤く光る石に変化した。
先生に視線で促されて鑑定すると、『魔法石(火)』に変化していた。
「おお、これが魔法石なんですね! 『魔法石(火)』になっています」
「ええ、これが魔法石です。この魔法石は火属性の魔法エネルギーを内包しています」
「先生は先ほど何をされたんですか?」
「生産スキルではなく、『魔力の器』に火属性の魔力を注いだだけなんですよ」
「そうだったんですか」
「ええ、魔力を注ぐのにはコツがあるんですけど、スキルは必要ありません。それに魔力量は多くなくても可能なんです」
この世界では魔力量に違いはあっても誰もが魔力を持っている。
強力な魔法は魔法スキルがないと使えないけれど、薪に火を点けることくらいは誰でもできるんだ。
だから生産魔法師であるエリカ先生も僕も、火属性の魔力を注ぐことはできる。
「魔法石は少しでも衝撃を与えると爆発しますから、綿でくるんだうえで慎重に保管されています」
少しの衝撃で爆発するとか、まるでニトログリセリンみたいだな。
「保管しておいて、いざというときに爆弾として使うのですか?」
「そのとおりです。王城の保管庫にはそれなりの数の魔法石が保管されていて、魔物の大規模な襲来など国難のときにだけ使うことになっているのですよ」
なるほど、濫用すると技術の漏洩リスクも高まる。王国はきちんと統治されているんだと改めて思う。




