第99話 陛下の提案
「これで世界樹を移すべき場所は分かったわけだな。世界樹とエルフを守るために南の未開地を領地にしたいという希望はセオドアから聞いておる」
「はい、そのようにしたいと考えております」
「そうか。世界のために誰も住んでいない未開地を領地に望むとは立派なことだ」
「ありがとうございます」
「そこで、私から提案がある。ウィリアム君を領主に任じることはまだできぬゆえ、フェアチャイルド家に南の未開地の開発を命じることにしたいのだ」
「当家に南の未開地の開発を?」
「うむ。未開地の開発を命じると同時に、ウィリアム君が成人した暁には叙爵し、開発した土地の領主に任じることを公表するつもりだ」
「そうすれば叙爵する前から事実上の領地として使えるようになる。なるべく早く世界樹を移すためには良い手ではないかと思うのだが」
父上は頷いた。
「なるほど、当家に開発を命じて、開発した土地は息子のウィリアムに将来の領地として与えるという形をとるのですか」
「そのとおりだ。未開地の開発と聞けば普通の貴族はしり込みをする。フェアチャイルド家の息子が未開地に飛ばされることに同情されることはあっても羨まれることはないだろう。何かとうるさい王都の貴族たちも反対せぬよ」
「いろいろご配意頂き、感謝いたします。当家で開発をするとなれば、大手を振って騎士団も派遣できます。謹んでお引き受けいたします」
「うむ、そう言ってくれると思っておった。もちろん財政面でも人材面でも王家として支援するぞ」
王家にも支援してもらえるとは。
「開発を命じた以上は支援することに理があるから、他の貴族も文句を言えぬ」
陛下は人の悪そうな笑みを浮かべた。
「陛下も父上も、ありがとうございます」
陛下のアイデアは、南の未開地を事実上僕の領地として与えてくれて、しかも父上と王家が開発を手伝う根拠にもなる。
さらに他の貴族の嫉妬を防ぐことにもなるから、よく練られたアイデアだ。
世界樹を元通りにするために、エルフたちと僕を本当に支援しようと考えてくださったんだな。とてもありがたい。
「感謝には及ばぬよ。本当はウィリアム君をすぐ領主にできると良いのだがな。爵位を授けて領主にするのは原則18歳だ。その例外はないか調べさせたところ、残念ながら今すぐ領主にすることは無理だった」
「ただし、例外として王立学園を卒業したら18歳未満でも叙爵できることは分かったが」
例外があるんだ?
陛下の話に父上も驚いたようだ。
「18歳未満で叙爵する例外があるのですか?」
「ああ、だいぶ昔に王立学園を飛び級で卒業した者を叙爵した例があったのだ。なるべく早く叙爵するために、ウイリアム君には飛び級で王立学園に入学してもらうことも考えている」
えっ、そんな話になるとは。
辺境でのんびりしていたいと思っていたのに。
「まあ当面は、ウィリアム君には南の未開地に世界樹を移す準備を頑張ってもらえればと思う」
「いろいろとご配慮頂き、ありがとうございます」
「いや、まだ子どもなのに救世主として世界のために苦労を背負おうとしてくれておるのだ。できる限りの支援をすることは王としても大人としても当然のことだ」
それを当然と思わない王は多いだろう。
やはりエドガー二世は名君だ。
そして陛下は悪戯っぽい顔をして付け加えた。
「大人になったら叙爵されて領地を得るとなれば、普通は貴族の娘たちに追い回されるところだ。だが南の未開地が領地だと公表することで、寄って来る者はいなくなるだろう」
「さすが陛下です。そこまで息子のためにお考えいただいたとは」
「はっはっは、救世主に悪い娘たちが寄ってきては困るからな。ウィリアム君はモテなくなるのは残念かな?」
「いえ、とんでもありません。前回王城にお伺いしたときは西部に逃げ帰るしかありませんでしたが、陛下のアイデアのおかげで王都の観光もできそうです」
「そう思ってもらえるなら良かった。まあウィリアム君なら、南の未開地が領地であっても付いていこうという娘はいるだろう。そのような覚悟のある娘のほうが救世主の妻としてふさわしい」
「そんな女の子がいてくれると良いのですが」
僕の返事に対し、陛下は呆れたような顔をされた。
「どうやら本気で、付いてきてくれる娘がいるか分からないと思っておるな。セオドア、そなたの息子は賢いが、女性との関係については教育をし損ねたのではないか?」
「おっしゃるとおりです。誠に申し訳ございません」
どうして陛下に呆れられて、父上もそれに同調して謝っているのかな?
不本意だ。




