第97話 探索隊の帰還
父上と話した後は、ノーザンフォードで探索隊の帰還を待っていた。
探索隊がどれくらい近づいているかは、途中で通過する町からの連絡を受けて、大体分かる。
騎馬と違って馬車はゆっくり走る。
それに捕らえられていた人たちのことを気遣って休憩をとりながら進んでいるみたいで、南に行ったときよりも時間がかかっていた。
探索隊がノーザンフォードに帰ってくるまで、僕はのんびりと過ごした。
またエルフの森に行ってハンモックを借りて、本を読んだ日もある。途中で眠ってしまったとき、誰かがブランケットをかけてくれたみたいだ。ありがたい。
晴れた日は、テオと川に釣りに行ったりもした。
緑の中で、川岸で水の流れる音を聞く。釣れなくても、それは癒しの時間だと思えた。
雨の降った日は、自分の部屋で本を読んだりピアノを弾いたりした。ソフィやテオが来て、一緒に演奏してくれることもあった。
こうしてゆっくり過ごすと、疲れが身体から抜けていく気がする。
そうこうしているうちに、ついに探索隊がノーザンフォードに帰還した。
ノーザンフォードの門を守る守衛からの連絡を受けて、僕は父上や母上と一緒に辺境伯家の館の前で待ち受けた。
騎士たちは形の上では休暇だけれど、実際には重要な任務を果たした。
だから騎士団が遠征から戻ったときと同じように館の前で出迎えるべきだというのが父上の考えだった。
遠くに探索隊の姿が見えてきた。
やがてその姿は大きくなり、館の前に着くと、ジェームスとアウラスニールが馬から下りる。
「閣下、フェアチャイルド家の騎士15名、ただいま戻りました」
「うむ、ご苦労だった」
「ウィリアム様、エルフの探索隊14名、ただいま戻って参りました」
「みんな無事で良かった」
エルフの探索隊は怪我人が出て一人減っているけれど、その怪我をしたエレンルエルも回復したと聞いている。
騎士もエルフも全員無事に帰ってきたことは何より嬉しい。
父上は改めて労いの言葉をかけた。
「未開地では苦難もあったとウィリアムから聞いている。騎士たちもエルフたちも、よくぞ地脈のクロスポイントを見つけてくれた」
それから探索隊が救出した人たちにも声をかける。
「奴隷商人に捕えられていた者たちは、苦労したな。これからはフェアチャイルド家が保護するから、安心してほしい」
捕らえられていた人たちは安堵した表情を見せた。
故郷の村が奴隷商人の私兵に焼かれて、帰る場所のない人も多い。
父上はそんな人たちを見捨てることはない。
探索に同行してくれた騎士たちはみんな誇らしげな表情だった。
父上の言葉を聞いた後、館の前に出迎えにきた騎士たちは帰ってきた彼らと握手したり、肩を叩いたりして労っていた。
ジェームス達にはボーナスを出すと父上は言っていた。
僕からも工房で作った物を何か贈ろうと思う。
帰還の挨拶が終わったら、奴隷商人に捕らえられていた人間の女性と子どもたちは街の宿屋に向かう。
宿屋には家令のスミスが事前に連絡してくれている。
騎士たちは騎士宿舎に向かう。
そしてエルフたちは、解放した同胞と共にエルフの森に向かう。
僕は転移魔法でエルフの森に跳んだ。
辺境伯家の一員として出迎えたばかりだけれど、ルーセリナと古老さんから、救世主として探索隊を一緒に迎えてほしいと頼まれていたからだ。
既に出迎えをしたのに妙な感じもするけれど、苦労して任務を果たした人たちを労うために形式も大事なのかな。
エルフの里の広場で、今度は族長のルーセリナや古老さんたちと一緒にエルフの探索隊を出迎えた。
アウラスニールが代表して挨拶をする。
「ルーセリナ様、古老様、そして救世主様。どうにか務めを果たすことができました」
「アウラスニール、よくぞ地脈のクロスポイントを見つけてくれました。これで世界樹を元通りにする道筋がみえました。そして同胞を解放できたことも誠に喜ばしいことです」
次は僕が話す番だけれど、うまく挨拶の言葉が浮かばない。
「未開地では多くの魔物と戦いました。それに湿気があったり、虫もいたりして大変でした。そんな悪環境の中でも、みんな本当によく頑張ってくれました」
何だか月並みな言葉になってしまった。
挨拶もうまくならないといけないかな。
「ありがとうございます。探索隊のメンバーは皆、力を尽くしてくれました。しかし、今回の探索は我らエルフのみでは成し遂げることは困難だったでしょう」
「湖の中の島には救世主様の転移魔法があればこそ行くことができました。そしてフェアチャイルド家の騎士たちが力を貸してくれたからこそ探索を無事に終えられました」
「我らは人間とは距離を置いて暮らしてきたが、良い人間もいることは救世主様の一族や騎士たちが示してくれておる。これからは良い人間たちと協力して世界樹を護っていくのだ」
古老さんやアウラスニールはそんなふうに思ってくれたんだ。
エルフの人族に対する不信は根強いけれど、少しずつ信頼しあえるようになると嬉しい。
翌日、僕はテオにも手伝ってもらって、解放されたエルフたちのために新しい家を建てた。
エルフたちは生産スキルで次々に家が建つことに驚き、感謝してくれた。
エレンルエルの妹は姉と同じ家でまた一緒に暮らすようだ。
「これでまた姉妹一緒に暮らせます。救世主様、ありがとうございました」
「これまで大変でしたね。これからは穏やかに暮らせることを願います」
捕らえられていた人間の女性と子どもたちのためには、工房の近くの空き地に家を建てた。
大工さんたちに頼むことも考えたけれど、酷い目に遭った彼らの中には、大人の男性が怖くなってしまった者もいた。
だから、僕とテオで家を建てた。
このところ住宅業者になったみたいな気分だけど、生産スキルが人の役に立つのは嬉しいかな。
解放された人族もエルフも、ノーザンフォードで体と心を休めて、早く元気になってくれることを願う。




