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第1話 勇者でも賢者でもない転生

 気がついたら真っ白な部屋にいた。

 さっきまで病院のベッドにいたはずなのに。

 一体ここはどこだろう?

 そう思っていると、声が聞こえた。

 でも見回してみても誰もいない。どうやら頭の中に直接話しかけてきているようだ。

 「不思議に思っているようですね。貴方は先ほど人生を終えました。ただし、貴方の魂にはもっと大きな可能性が秘められていたのです。それが環境に恵まれず開花しなかったことを私は惜しいと思っています。」

 そうなのかな?

 僕は普通に大学を出て、普通の会社で働いた。

 残業は多く、ときどき休日も出勤しないといけなかったけど、ブラック企業というほど酷くはなかった。

給料はあまり上がらず、奨学金という名前の借金を返すので精一杯だったけど、食べていくことはできた。

 時間もお金もなくて、結婚どころか彼女をつくる余裕もなかったのは残念といえば残念だったけど、今どき、特に珍しくもない人生のはずだ。

 「ああ、それを普通の人生と思ってしまうところが、おかしいのですよ。」

 頭の中で声の主は嘆いた。

 「貴方の世界では『社畜』というのでしたか。まさに家畜のように自由のない人生です。『親ガチャ』で当たりを引けなければ人生の選択肢が乏しい世界。それでは、秘められた可能性が花開くこともできません。」

 秘められた可能性?

 そんなものが僕にあったのかな?とてもそうは思えない。

 「いいえ、確かにあったのですよ。その可能性に貴方が気付く機会もなかったことをとても残念に思うのです。ですから、貴方に別の世界でもう一度生きる機会をつくりたいと思います。」

 おお、これは小説でよく読んだ異世界転生か。

 「貴方が生まれ変わる世界は、いわゆる『剣と魔法の世界』です。魔物が出ますし、文明はさほど発達していませんが、活気があって発展の可能性のある世界です。ふふ、私の造った世界なんですよ。」

 ああ、この声の主は神様だったのですか。だから僕の心の声が筒抜けだったんですね。心の中とはいえ、ため口をきいてすみませんでした。

 「いいえ、気にすることはありません。貴方が良い人なのは知っていますよ。ですから転生にあたり、祝福を与えましょう。貴方は優れた剣のスキルを持つ勇者か、秀でた魔法のスキルを持つ賢者として生まれることができます。」

 勇者に賢者ですか。子どもの頃に憧れたこともあります。

 あれ、子どもの頃?僕は一体何歳なんでしょう。

 「貴方の人生の記憶は楽しいものばかりではありませんでした。だから曖昧にしてあります。進んだ文明の記憶は新しい人生で役に立つでしょうが、辛い思い出まで持っていく必要はないと思うのです。」

 神様は優しいのですね。ありがとうございます。

 「そんなふうに素直に感謝できるのも貴方の美点ですよ。さて、勇者と賢者のどちらを選びますか?」

 どちらも魅力的ですが、何だか疲れた感じが抜けなくて、勇者や賢者になるような元気が出ません。田舎でものづくりでもして、ゆっくり生きることはできないでしょうか?

 「そうですか。貴方は魂まで疲れてしまったのかもしれませんね。うーん、辺境の生産者というのも貴方の可能性の一つのようですが、それで良いですか。」

 はい、辺境の生産者が良いです。

 「分かりました。それでは貴方の希望を尊重しましょう。ああ、それから、前世の記憶が戻るのは生まれたときではなく少し大きくなってからです。」

 希望を聞いて頂き、ありがとうございます。

 「貴方の新しい人生が良い旅路であることを願っています。生産者といっても祝福を受けて生まれますから、貴方の周囲に人は集まり、自然と大きな力になっていくでしょう。ふふ、ついでに世界の危機を救ってくれても良いのですよ。」


 こうして僕は勇者でもなく、賢者でもなく、生産者として転生することになった。

 最後に神様が妙なことを口にされたけど、生産者が世界の危機を救ったりできないよね?


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