『手・顔・手』系ボスの一日
俺は『手・顔・手』系ボスの“顔の部分”だ。
え、『手・顔・手』系ボスって何だよ、だって?
ほらテレビゲームやってるとたまに出てくるだろ。パーツが顔・右手・左手に分かれてるボスキャラ。先に右手を倒さないと回復されるとか、左手から倒さないと攻撃がキツイとか、顔を攻撃するには手を足場にしなきゃいけないとか、攻略方法を考えなきゃいけないボスな。この説明でも分からなかったら自分で検索して調べてくれ。
それはさておき、俺の一日は結構早い。朝の6時にはもう起きてる。
右手と左手は……まだベッドですやすや寝てやがる。いい気なもんだ。
え、顔だけ起きて手は寝てるなんてあり得るのかだって? あり得るんだな、それが。
俺たちは顔と両手で一つの生命体なんだけど、それぞれ独立して行動してるんだよ。なんでそんなわけ分からん生命体なのかなんて聞くなよな。俺だって分からねえんだから。
起きたから朝飯を食わなきゃならねえ。
キッチンにある食パンをオーブンに入れてトーストにするわけだが、俺は顔だけだから一連の作業を全部口でやらなきゃならない。まあ、もう慣れたもんだけどな。
程よく焼けたトーストに向けて俺は頭を下げる。
「いただきます」
表面はカリッ、中はモチモチ。う~ん、美味い。
朝はご飯派かパン派か。戦争になりそうな話題だけど、やっぱり俺はパン派よなぁ……。
この頃になると、ようやく右手と左手が起きてくる。
俺が挨拶すると、左手は親指を立てるサムズアップをしてくれるんだけど、右手はほとんど反応しない。同じ手なのに、どうしてこんなに性格が違うんだか。
右手は起きるなり、スマホをいじり始めた。
最近はずっとこうしてる。一日中家にこもって、ゲームやったり動画見たりしてやがる。
「おい右手、スマホも程々にしとけよ。たまには外出ろ!」
俺が話しかけても無視。ったく、典型的なスマホ中毒だな。手の施しようがねえよ。
一方、左手は左手で、起きたらすぐに出かけてしまう。
毎日のように朝から晩まで外で遊び歩いている困ったちゃんだ。遊び人ならぬ遊び手だな。
「どこ行くんだ? 左手」
俺が聞くと、左手は得意げに小指を立てた。
そう、こいつには彼女がいる。なんで俺には彼女がいないのに、こいつにはいるんだよ。マジで意味分からん……。
なんか悔しいので俺は「女泣かすような真似はすんじゃねーぞ」と声を投げつけてやった。
これで朝は終わり。
午前中、俺は庭に出て鍛錬をする。なにしろこれでもボスだからな。強くなるためにトレーニングは欠かせない。
俺の得意技はなんといっても顔であることを生かし、口から様々な攻撃を吐き出すこと。
例えば――
「ファイアブレス!」
灼熱の炎を吐いたり、
「アイスブレス!」
全てを凍てつかせる吹雪を吐いたり、
「アルティメットブレス!」
なんかもうすごいのを吐いたり、こんな感じだ。
“顔から火が出る”なんて言葉があるが、あんなの俺からすれば「火しか出せねーのかよ」って感じだな。
大声で敵を威圧して恐怖心を植え付ける技もあるから、もちろん練習する。
「ギャオオオオオオオオオッ!!!」
ただしこれをやると高確率で近隣住民から苦情が来る。
「ちょっとあんた、うるさいぞ!」
「もっと静かにやってよね!」
「いい加減にせんと、騒音で訴えるぞ!」
こうなると俺は平謝りするしかない。
「すみません……気を付けます……」
いくらボスキャラだってご近所付き合いには勝てないのだ。
昼食はインスタントのラーメンを作る。
俺は顔だけだから箸やレンゲを使えないので、どうしても犬食いになる。
トーストはまだしも、ラーメンを犬食いするのはなかなかの労力を要する。誰かの手を借りたくなる。それこそ猫の手も借りたい。犬食いしといて猫の手を借りたくなるなんて、とんだお笑い話だ。
午後は家の掃除をする。
俺は顔なので、口で敵を吸い込むスキルも持っている。そのスキルで散らかってるゴミを吸い込んでしまうのだ。
ちなみにゴロゴロしながらスマホいじってる右手にも呼びかけてみる。
「おい、たまには掃除手伝ってくれ」
反応はない。
「おーい! 掃除手伝ってくれ!」
返事がない。ただの右手のようだ。
俺は舌打ちしつつ、どうにか掃除を終えた。まあまあピカピカになった。
あっという間に時間は過ぎていき、日は沈み、夜になった。
俺は炊飯器にあったご飯をチャーハンにして食べた。
右手をちらりと見る。やっぱりスマホをやってる。結局こいつ、ずーっとスマホしてたな。
左手もまだ帰ってこない。どこをほっつき歩いてるのやら……。
好き放題して家のことをろくにやらない両手を見てると、時々「こいつらとはやってらんねー」って気持ちになる。解散したくなる。
そうなった場合、解散の理由は何になるんだろう。俺らはパーツで分かれてるから、“パーツ性の違い”かな? ソロでもやっていけるよう、今のうちに色んなところで顔を売っておくべきかなぁ。たとえメンバーから両手が抜けても、俺は手を抜かないぞ。
俺が食器の後片付けをしていると、玄関のドアが開いた。左手がようやく帰ってきたのだ。
「お帰り」
俺が声をかけると、左手はどこかウキウキしている。
妙だと思った俺が左手をよく見ると、薬指に指輪が嵌まっている。
あれ? 今朝はこんなものつけてなかったはず――
「お前、まさか……結婚するのか!?」
俺の大声に、左手は指でうなずく。
今付き合ってる彼女にプロポーズして、婚約することに成功。それで婚約指輪を嵌めているとのこと。
「マジかよ! おめでとう!」
俺が喜ぶと、右手もスマホを置いてやってきた。右手もまた、左手の結婚を喜んでいるようだ。いつもスマホをいじっている右手だけど、こいつにだって仲間を祝福したいという気持ちはあるんだ。
左手は手話のような会話術で、結婚式では俺にスピーチをして欲しいという。
俺の顔を立ててくれるというわけか。フッ、任せとけ。『手・顔・手』系ボスの顔担当として、最高のスピーチをしてやるさ。
この夜、俺と右手、左手は大いに騒いだ。
さっきは解散したいだなんて言ったけど、こういうことがあるとやっぱりこいつらとは手を切れないな、とも思っちゃうんだよな。
おわり
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