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【怪石の呼び声】  作者: 山口友祐
第六章 海の底にこそ都はあり

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40 瓦蕎麦でも食ってから帰る


          (4)



 ――場面は変わって、壇ノ浦の、海上。

 艦艇に乗り込んだ西京と瑠璃光寺たちが、アンコウたち邪神勢と戦闘を繰り広げていた。

 ――ブ、ワンッ……!!

 と、妖狐の召還したクモと、漁師スタイルの猫らも加わり、甲板に放った網が、

「う、うわぁぁんッ!!」

「な、何だこれは――!?」

「う、動けねぇぞッ!!」

 と、まさに一網打尽のごとく、アンコウたちの邪神兵や、操りの身となった兵隊たつを無力化していく。

 そのいっぽう、

 ――シュッ、バッ――!! シュバッ――!!

 と、瑠璃光寺が弓を放ち、アンコウの側近の兵を散らしつつ、

 ――キン、キーンッ――!!

 と、ぶつかり合う金属音を響かせ、西京が敵方のボスであるアンコウと決闘を繰り広げる。

「アンコウ!! もういいだろう!! これを、今すぐ止めるんだ!!」

「ぬふっ――!! とは言っても、これは、宮本殿の意志――。ゆえに、私を倒しても止まりませんな」

 と、何がもうこれでいいのか、降伏を要求する西京とアンコウが剣を交えつつ言い合う。

 その時、


 ――ズ、ザザザッ……


 と、海峡が静かにどよめいた。

「む……?」

 西京と、

「ぬっ……?」

 と、アンコウも同じく、いったん剣を止めて、“それ”に反応した。

“石”が消滅していき、水が、ゆっくり引いていくのが分かる。

 すなわち、呪力場は解放されたわけである。

「た、太郎さん! これって――」

 と、瑠璃光寺の声が聞こえるのをかき消すようにして、刹那、

「ハァッ――!!」 

 西京が居合よりも速く神速のごとく――!! 剣を振るった。

「ぬッ!? ふゥゥッ――!!」

 呆気に取られていたアンコウのサーベルが弾かれ、そのまま海へと落ちていく。

「ぬぬぬッ……」

「どうだ? これでも、まだやるか?」 

 焦りの顔のアンコウに、西京が問う。

「……」

 アンコウは沈黙しつつ、間をおいて、

「ふぅ……、呪力の本体を持つ、宮本殿が敗れたこと――、さらには、目の前にいる貴殿たちと、妖狐も加わることになるでしょう……。ゆえに、私たちは、これ以上やることもできませぬし……、やる意味も、ありませぬな」

 と、答えた。

「そういうことで、私どもは、撤退をしますぞ」

 タコの法師が、そう付け加える。

 ――ベンベン……、ベンベン……

 と、琵琶の音を鳴らしながら、アンコウたちと邪神兵らは、海へと消えていった――

 そうして、関門海峡に平穏が戻った。

 辺りはすでに暗くなっており、関門橋や海峡を挟んだ街は、夜景の光が明々と灯る。

 そんな風にして、赤間神宮やみもすそ川のほうを見ていると、

「太郎、さん?」

「う、ん?」

 と、瑠璃光寺が声をかけてきた。

「これで、終わったんです、よね?」

「まあ、ひとまずは、そうだろうね」

 西京が答える。

 その時、

 ――チリリン♪ チリリン♪

 と、西京の携帯電話が鳴った。

 電話を手に取り、

「お? 松もっちゃんからか? ――もしもし、松もっちゃん」

『西京、大丈夫だったか?』

「ああ、いちおう、無事に終わったよ」

 と、西京は気にかける松本清水子にそう答えるつつ、ひととおりのことを話した。

 事件の顛末と、被害。

 それから、後日の調査を含めたことの相談などを。

『――で、どうする? まあ、少しゆっくりしてから帰って来いよ』

「まあ、そうだね。松もっちゃんの言葉どおり、少しゆっくりして、瓦蕎麦でも食ってから帰るよ」



(終了)

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