4 かしこまりぃ!
と、メガネの男は相づちしつつ、続けて、
『――ただ、のちのちの、ギリシャやローマ……、それからもっと後の時代のゴシックの大聖堂でも、石を遥か高いところまで、持ち上げれたようにですね……、クレーンというか、重量物を垂直に運搬する技術ってのは、古代から、それなりにあったんじゃないか? って、思うんですよね』
『まあ、そうだよね』
と、坊主頭も、そう相槌しながら、
『――で? その方法で、ピラミッドの頂上まで石を積み上げていったとしてさ、その……、ピザのピースみたいな池の部分は、どうするの?』
『まあ、そうですね……、中心側から順に、池を埋めながら石を積んで、塞いでいくんじゃないですかね』
『そっかぁ……。まあ、でも、もし本当にこんな方法でピラミッドができたってなると、今までの仮説が馬鹿らしくなっちゃうよね』
『でしょう、ねぇ』
と、ふたりは、ピラミッドの建造方法の仮説についての話を終える。
そのまま、
『ところで、ピラミッドについて話した流れでなんですけど、オカルト界隈でも日ユ同祖論ってのがありますよね』
『うん。あるよね』
『古代の日本と、古代ユダヤが何らかのつながりがあったように、古代のエジプト王朝だったり、その末裔が――』
――と、ここまで動画を視ていたところで、
「――お? いたいた。西京ぉ、るりカスー」
と、ふと誰か、女が声をかけてきた。
「ん――? ああ……、松もっちゃん」
「る、るりカスて……」
と、西京太郎と瑠璃光寺玉は振り向き、声の主の顔を確認する。
ややグレーがかったミドルヘアに、厚い黒ぶちメガネが特徴的なアラフォー・ビューティ。
その、松もっちゃんと呼ばれた女は、同じく特別調査課に所属するが、別の調査室の室長を務める、松本清水子であった。
「松もっちゃんも、こんなところに、食いに来てるのか?」
西京太郎が、こんなところ呼ばわりしつつ聞く。
「ああ、私も、瓦そば好きだかんね」
と、松本清水子は答えつつ、通りかかった店員に、
「あっ? 私も、同じのちょうだい。それと、ドクターペッパー」
「かしこまりぃ!」
と、注文を伝えた。
「ほんと、ドクターペッパー、好きだね。松もっちゃん」
「まあ、ね」
松本は相槌しつつ、
「……」
と、ジッ……と、西京太郎と瑠璃光寺玉のふたりのほうを見た。
「……?」
瑠璃光寺と、
「ん? どうしたんだい?」
と、西京が、キョトンとして反応すると、
「いや、さ? ほんと、パパ活してるみたいに見えるよな、てめぇら」
「「何てこと言うんだよ」ですか」
と、ふたりは「何てこと言うん」のところを声を重ねて、つっこんだ。
つっこみながらも、
「というか、相変わらず、口が悪いよな。松もっちゃん。旦那さんに似てるね」
「あ? 元だろ? 殺すぞ」
「だから、その、ナチュラルに『殺すぞ』とか、普通に口が悪くない人は言わないって」
と、元旦那に言及されて苛立つ松本に、西京はやれやれと諌める。
なお、元旦那の綾羅木定祐だが、『神楽坂事務所』などという合同会社で調査関係の仕事をしているという。
それはさておき、そうしているうちにドクターペッパーがきて、松本も西京たちのテーブルについた。
西京が、ふたたび瓦そばに箸をやりつつ、
「で? 君が来たからには、たまたまじゃなくて、何か、用があるんだろ? 僕たちに」
「うん。よく分かったね」
「「いたいた、」と言って声をかけてきたじゃないか。だから、僕らを探していたのを推測できるじゃないか」
「ま、そだよね。まあ、昼飯ついでにさ、ちょっと……、たぶん、アンタたちの案件になりそうなことを、話しておこうと思ってさ」
「僕らの案件、だって?」
と、西京が怪訝な顔で、箸を止める。
「うん。何か、ユーサクのヤツから、さ? 下関で、怪事案が起きそうな予兆があるって、相談が来てさ」
と、ドクペを手にしながら、松本が答えた。