34 まるでドレーク海峡のように
(2)
かつて千年ほど前に合戦のあった壇ノ浦にて、海戦が始まる。
――ポンポン、ポンポン……
と、音をあげながらも、勇壮に海峡を駆ける西京たちの船団。
対するは、十倍以上は巨体の、最新鋭の艦艇群。
「フン、何をするのやら」
宮本が鼻で笑い、
「容赦は、しなくていいですな……?」
「ああ、もちろんだ」
と、問うアンコウに答える。
「やれ――」
と、宮本が言うとともに、操られた自衛官、軍人たちが動く。
すると、すぐに砲塔が西京たちのほうを向き、照準を合わせる。
そうして
「撃てぇぇいッ――!!」
「ファイ、ヤァァッ――!!」
などの掛け声とともに、
――ドォンッ――!! ドォンッ――!!
と、いっせいに艦砲が火を噴いた。
このままだと、そのまま木っ端みじんに、海の藻屑か魚の餌と消えてしまいかねない状況に、
「ふむ。初っ端から、仕方ない」
と、宙に浮く妖狐が、何か発動の構えをとる。
懐から、まるで昔話の花咲じじいのように取り出さんとする構えから、
――ファ、サァァ……!!
と、何かを放つ。
まるで、秋の紅葉の山の、風に散る“もみじ”の花吹雪――
しかしながら、それらの花吹雪はゲーミング何とかのように光り輝きつつ、同時にそれらは、さながらCGか、空中ドローン・アートのように広がる。
そうして広がった花吹雪は、シューティングもののシールドやバリアのようにして、光を放ちながら艦砲や機関砲の弾幕を無力化していく。
「な、なんと――!?」
味方がたの舟からと、
「ば、バカなッ……!?」
と、敵方の、宮本とアンコウたちの舟からも、「信じられない!」との声があがる。
続けて、
――ニョ、キッ……!!
と、海面からシュールなかっこうで、スーパーマリオのパックンフラワーみたいな巨大植物顔を出すや、
――ゴ、ワッ……!!
と、何か粘膜を吐き出した!
それらは、数隻の艦艇に向かって放たれるや、
「う、うぉぉんッ――!?」
「な、何だこれは――!?」
と、甲板の兵たちの声があがった。
粘液によって兵隊たちはもちろん、機関砲やミサイルの発射機構などもコーティングのように捕らえられ、無力化されてしまう。
「おおッ――! やったか!」
「タヌ、キツネさん――!」
と、西京たちから歓声が上がりつつも、
「ていうか、私しか何かしてないだろ。いい加減にしろ、貴様たち」
と、妖狐が露骨に嫌な顔をする。
まあ、しごくもっともなツッコミでもあり、妖狐のお前だからこそできる業だろとも言えるところだろう。
そうして、次の艦艇を落とそうとするところ
――グ、ワンッ――!
と急に、大きく船体が揺れ、持ち上げられる。
「キャッ――!?」
「る、るりさん!! 気をつけて――!!」
驚き、投げ出されかける瑠璃光寺を西京がつかんで留めつつ、
「ヤツラの力だ!!」
「――!?」
と、海面を見て呼びかける。
そこにはあろうことか、巨大な三角波が海峡に発生していた!!
船が、まるでドレーク海峡のように、十メートル以上も上下に揺さぶられる!!
同じように、
「う、うわぁぁぁ!!」
「ふ、振り落とされちまうッ!!」
「し、しっかり掴まれぇぇッ!!」
と、味方の舟たちも謎の波に翻弄される。
そこへ、
「ぬフフ……!! どうです、我が仲間、蟹の力は――!」
「――!」
「――!」
と、アンコウ船長の言葉に、西京と瑠璃光寺が驚愕する。
同時に、
――ベンベン! ベンベン!
と、タコの邪神が、琵琶を鳴らした。
「ぬフフ……、と言いますのはな、貴方がたの舟の下の――、海の底にはですね、我が軍勢の蟹がおりまして、呪力で以ってして、大波を起こしているわけなのですな」
「――!」
「な、何だって――!」
と、わざわざ説明するアンコウに、西京と瑠璃光寺が驚愕する。
「やつらの艦の、甲板じゃなくて、海の底か、」
西京が、何か手はないかと、海の底のほうを見ようとした、その時、
「むむッ――!?」
と、西京は何か気配を感じるともに咄嗟に動く。
それに少し遅れて
――ズキューン――! ズキューン――!!
と、音が響いてきた。
ライフルの弾――
その軌道は、正確に、西京の心の臓があった場所を掠めていた。
しかし、西京は“それ”を、まるで居合をかわすかのごとく、外してみせたわけである。
西京が、弾道のきた方を見るに、
「み、宮本ッ――!」
と、そこにはやはり、ライフルを手にした宮本の姿があった。




