31 少しテンション上げながら呑気なセリフを
(4)
――グウォォン……!!
と、エンジン音を響かせながら、西京と瑠璃光寺のふたりは逃げる。
「バッドシティ……、イェー……、バッシティ……!」
と、ユーサクが能面のような無表情で、ベスパに乗りながら追ってくる。
縦横無尽な、坂の街の追走劇に、
「た、太郎さんッ!」
「し、しっかり掴まってるんだ! るりさん!」
と、西京がバイクを操る。
狭い路地を駆け抜け、階段を走行し、時にはスピードをつけてジャンプさせて別の路地から路地へと飛び移るなど、さながらアクション映画のように、カーチェイスならぬバイクチェイスを繰り広げる。
「これは、普通だったらすごい交通違反しているよね! どれだけ原点食らうんだろうね!」
「い、いや! それどころじゃないですよ! 太郎さん!」
少しテンション上げながら呑気なセリフを言う西京に、さすがの瑠璃光寺もつっこむ。
そのようにしながらも、神業的な技術でバイクで縦横無尽に坂の街を駆け抜けて逃げるも、
「た、太郎さん!」
「くっ……! なかなか引き離せないか」
と、後ろを振り向くに、
「……」
と、能面のような表情になったユーサクが、ピタリと距離を保つように追走してくる。
追い付かれ、呪術によって自分たちまで取り憑かれてしまえば、確かに松本のいうとおり、この現地には宮本や邪神たちを止めれる者はいなくなってしまうだろう。
そうした重圧も加わる中、逃げているわけである。
しかし、
――ブ、ブーン……!!
と、ベスパのエンジン音が近づくと同時、
「バッド、シティ、イェェ~……」
と、ユーサクが西京たちの横に並んだ。
「よぉ、太郎ちゃん」
「――!」
「くっ……! ゆ、ユーサク!」
驚愕した顔の瑠璃光寺と、西京も一瞬焦った表情になる。
「太郎ちゃんも……、俺たちの仲間に、なろうぜ……」
ユーサクが言いながら、紫のオーラが出る。
もしこれに捕まれば、西京と瑠璃光寺のふたりも、宮本や邪神側に取り込まれてしまう。
「た、太郎さん!」
「る、るりさんッ! 蹴るんだッ!」
焦る瑠璃光寺に、咄嗟に西京が言う。
「え――!?」
「いいから! 早く!」
「は、はいッ!」
ダイレクトな西京の指示に戸惑いつつ、
「え、えいッ――!」
と、瑠璃光寺は横に並んだバイクのユーサクに蹴りを見舞う。
「おわっちッ――!?」
ユーサクが驚きつつ、すこしバランスを崩す。
そうして、クイ、クイッ――と、バランスを崩したバイクを復原させようと、スピードが落ち、西京たちとの距離が空く。
ただ、そうしても、またすぐに追いつかれることは目に見えていた。
――ブーン!!
と、再びベスパが近づいてくる。
「よぉー、諦めちまいなよー♪ 太郎ちゃぁーん、るーりちゃぁーん♪」
ユーサクが、ぬるっと横について顔を出す。
「ひッ――!?」
「る、るりさん! な、何かッ、何でもいいから妖具を出すんだッツ!」
固まる瑠璃光寺に、西京が叫ぶ。
「よ、妖具ですか!?」
「な、何でもいい! “葛葉”を通して、何か出すんだ!」
西京に言われ、
「わ、分かりましたッ――!」
と、瑠璃光寺は闇雲ながら、“葛葉”を通じて、何か妖具を召還しようとした。
すると、“葛葉”の蔓が伸びるや否や、
――ボワンッ……!!
と、煙幕とともに“ナニカ”が召還される。
悪魔の実ともよべる歪な形の実――、すなわち、古来、忍者の撒きビシとしても使用されていた菱の実がバラまかれた。
さらに、それらは妖力を帯びて、まるで金属のように硬くなっており、
――バスッ!! バスッ――!!
と、ユーサクのバイクタイヤをパンクさせる。
「うっ――!? うぉぉッ!! 撒きビシかぁッ!!」
パンクしてバランスを崩すバイクに、ユーサクが叫ぶ。
そのまま、バイクは倒れながら滑る。
「ぐ、ぬっ!!」
ユーサクは何とか離脱し、戦闘態勢をとろうとしたところ、
――ゴ、ワッ……!!
と、今度は魔界の蜘蛛らしき召喚獣――ディフォルメされたマンガのような姿でいて、飲んだくれ漁師の風体をしたクモの糸の網に包まれ、その動きを封じられる。
「おぉぉッ!? 何じゃこりゃぁッ!?」
ユーサクは叫び、抵抗しようとするも動くことが出来ない。
「あっ――」
一連のことに驚く瑠璃光寺と、
「おっ、ヨシッ、やったか!」
と、西京が安堵の歓声を上げる。
その横では、裂きイカを食いながらクモがドヤ顔するように糸のロープをクルクル回しつつ。
「うぐぐッ……! おい、こいつをといてくれよぅ!」
藻掻くユーサクに、
「ユーサク、後で助けてやるから、勘弁してくれな」
「ユーサクさん、ごめんッ……!」
と、西京と瑠璃光寺のふたりは、詫びつつ先を急ぐことにした。




