21 酒とツマミとで寝酒をするなど
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昨夜の、彦島での調査中に、襲撃を受けたあとのこと。
西京太郎と瑠璃光寺玉のふたりは旅館へと戻り、酒とツマミとで寝酒をするなど、何ごともなかったかのように一夜を過ごした。
寝つけないことも特になく、快眠であったが、まあよく普通に寝れるなという話である。
西京たちにとっては、そんな大した相手ではなかったのかもしれないが、仮にも、あのような鬱蒼とした森の中で突然、火のついた矢が飛んできて、異形の者たちに襲撃されたわけである。
そんな怪異に遭遇すれば、ふつうの人間であれば、恐怖で一睡もできないのではなかろうか。
また、怨霊のように、その場から逃げおおせたとしても、あとから相手が追ってこないとも限らない話でもある。
まあしかし、西京たちにとっては、“よくあること”なのだろう。
現場で、ちょっとめんどくさいトラブルにあったわ程度の感覚であり、とりあえず、帰って酒でも飲むかといったところだろう。
それはさておいて、そんな西京と瑠璃光寺のふたりは、朝食は終えて朝のカフェタイムの最中だった。
サザエの貝殻や、風化したコンクリート塊に紅白の生け花と、平家物語の絵巻の飾られた床の間に、コーヒーの香りが漂う。
「やれやれ、昨夜は、まいったね」
と、あまり顔色や表情の変わらない西京に、
「ほんと……、そうですよね」
と、こちらは少しくたびれた様子で、瑠璃光寺が同意した。
「まさか、あんな、矢が飛んでくるなんてね、思ってもなかったね。しかも、火までついているなんてね」
「ほんと、びっくりしましたよね。火のついた矢が飛んでくるなんて、生で見ましたね」
二人は、思い出して話す。
まあ、矢が飛んでくること自体、現代のふつうの人間であれば、あまり経験することのないできごとだろうに。
続けて、
「――というよりも、太郎さん」
「う、ん……?」
「パソコン、どうしましょうか?」
「あっちゃぁ……、そうだったね」
と、ここのここで、二人はまさにその火のついた矢がパソコンに命中を、お釈迦になってしまったことを思い出した。
「う~ん……、仕方ないね。今回は、タブレットで代用しようか」
「そうですね」
と、さすがにパソコンより使い勝手や性能は落ちるものの、二人は気にしないことにする。
それどころか、
「というより、タヌキさんの“葛葉”につながってるんですから、パソコンかタブレットか、性能差を気にしなくていいですよね」
「うん。それも、そうだったね」
と、借りパクしている形の、妖狐の“葛葉”を使うことを、当たり前のものと考えていた。
まあ、この二人も、まあまあクズなのかもしれない。
話を進める――
ポンコツダヌ――、否、妖狐の“葛葉”と特別調査課のVR室にいた零泉円子を通じて、改めて呪力場や昨夜の巨石の解析をしてもらった。
それによると、おそらく何者かが、石を“起動”させた可能性があること。
また、そのことによって、今回の呪力場異常と、怪現象を引き起こされており、今もそれが続いているどころか、より重大な事案に発展する可能性があることが分かった。
「ひっかかるのは、この石を起動させた者が“いる”ってことだな」
西京が言った。




