16 まるで、ドラえもんみたいな、アイツ
(4)
――ファーン……
と、サイバーSF的に、つながる通信。
そう思いきや、
『う、うっす……、お疲れ様でっす、西京さん』
と、何やら、寝起きのような声がした。
それと同時に、モニターにはテレビ電話のようにして、零泉円子の姿が映った。
仮眠をしていたのか、髪が、少し乱れているのがわかる。
「ああ、零泉さん。まだ、いたのか? すまないね」
西京太郎が詫びる。
『いやぁ……、その、室長から聞いてましてね……、まあ、万一の、重大な案件に発展する可能性もある思いまして……、ちょっち、呪力場をモニタリングしながら待機してたんすけど……、寝落ちしてたっす』
「わぁ、優しいね。円ちゃん」
「いやぁ、悪いね」
と、申し訳なさそうにする西京に、
『それで、何か調べます? たぶん、そのぉ……、石っすよね?』
と、画面の中の零泉が、件の石を指した。
「ああ、そのとおりだ。下関における呪力場の異常と怪現象……、それから、海峡の石と、何か関連があるかどうかをね、僕たちも調べていてね」
『そういうこと、っすね……。ちょっち、待ってください』
零泉が、了の解と受けつつ、
――スチャッ
と、鼻より上の、頭半分だけのヘッドギアを被った。
さらに、手のほうにも、肘まで伸びたウェアラブルデバイスをはめる。
そんな、某オールドボーカロイド風の、近未来的サイバースタイルになりつつ、零泉はVR室のコンピュータ群と脳、身体を“接続”する形で、情報分析をしていくわけである。
またそこへ、
「それで、そのコスプレみたいなのはわかったけどさ? どうやって、石を分析するんだ?」
と、江藤優作こと、ユーサクが聞いた。
『そっすね……、ちょっと、タヌ――、いや、キツネはんの――、妖狐はんの、“葛葉”を使わせてもらいましてね』
零泉が、タヌキからキツネ、そして“妖狐”へと訂正しながら、何やら答えた。
「タヌキ、だって? ――あん?」
ユーサクが聞き返そうとすると、同時、何かに気がついた。
そこには、
――ニョキッ
と、パソコンから、何やら緑色の蔓葉が伸びていた。
ホログラフィーのように現れた“それ”は、日本画のような美しい緑色をした、蔓植物の“葛”の蔓葉と、それらに絡み合う、高度な電子回路のような金糸――
あらゆる情報網に侵入し、ハッキングしたりして情報を得ることができる妖力・妖具であり、出力次第では、米中ロの大国の情報機関や巨大テックを凌ぐという、けっこうチートクラスのものだった。
「ああ……、これはタヌキさ――、いや、妖狐の妖具の、“葛葉”だね」
西京が言った。
「妖狐って、あのタヌキのことか?」
ユーサクもピンと来て、モニターの中の零泉に聞く。
『そ、そっすね。タヌっ、いや妖狐の、神楽坂はんのことですね』
と、零泉が答える。
なお、毎回タヌキと言い前違えるのが、デフォルトなのだろう。
説明すると、その妖狐とは、零泉が言ったように、名を神楽坂文という。
某諜報家族の嫁のような暗殺者風ドレス姿に、長く麗しい黒髪に狐耳といった、美女の形をした妖狐であるが、西京たちの特別調査課たちとは一応は協力関係にある。
そして、この“葛葉”を含めた妖狐の妖力というか妖具が、まるでドラえもんの秘密道具よろしく、いいように使われているわけである。
「何だ? まるで、ドラえもんみたいな、アイツか」
「まあ、その、ドラえもんみたいなナニカ、だよね」
と、西京が答えつつ、
「で? そのタヌキの道具を、何で円ちゃんたちが持ってんの? 借りパクゥ~?」
『ま、まあ、そっすねぇ……』
と、零泉が誤魔化した。




