13 海の中に、石(意思)が、ある――
挨拶ついでの話は、そこそこに、
「とりあえず、松もっちゃんたちの呪詛解析を見て、実際に……、海峡のほうも霊視してみよう、ユーサク」
「オー、ケェ~イ」
と、話を進めていくことにする。
西京と瑠璃光寺のふたりはノートパソコンを通して、さらに、そのデータを異能力を以ってして、ホログラフィックに表示する。
それを、先ほどみた解析結果から改めて更新されたものを、ユーサクとともに見てみる。
ユーサクが、それを見ながら、
「う~ん……、これは、確かにねぇ〜……? すぐにも、異常事象や邪神が出てくるっつーわけでもないけど、出てこないとも、言えないねぇ〜」
「うん。確かにね、微妙なところ、なんだよね」
と、西京も、確かに微妙な表情で答えると、
「おっとぉ? そうすると、その『微妙なんだよね』で、太郎ちゃんたちは、わざわざ、東京からこんなところに来たのかい?」
「いや、ね? だって、松もっちゃんたちから、上から頼まれたわけだからね。もっとも、その発端は君じゃないか?」
「おっとぉ、そうだった。すまんねぇ」
と、うっかりしてたと、ユーサクが詫びる。
そうしていると、
「ちょっと、太郎さん、ユーサクさん、」
と、瑠璃光寺が声をかけてきた。
「う、ん?」
「どうしたん、だぁ~い? るぅりちゃ~ん?」
「何か、その……? 少し、呪力場が強くなっているというか……、増えて、ません?」
と、瑠璃光寺はホログラフィーを指さした。
それらの、下関と周辺海域の3次元解析図のような呪力場を見るに、確かに、先ほど新幹線で見た時よりも呪力場が強くなっているのが分かる。
さらには、その示す範囲だったり、スポットが増えているようにも見えるという。
「ん、ん~ん……? 確かに、ねぇ~……」
感心するユーサクと、
「これは、海の、底のほうだよな?」
と、その横から、西京が言った。
ホログラフィックに映る解析データの、海峡のほうを拡大してみるに、呪力場の反応やスポットが、関門海峡の海底に点在しており、またその数も増えてきているのが分かる。
「航行している舟――、ではないよな?」
と、西京が聞く。
舟にいる何者かの可能性も、無きにしもあらずだからだが、
「ああ。少しは、舟のほうにも反応があるが……、大部分は、海底のほうからだねぇ」
と、ユーサクが、ジッ……と近づいてデータを見ながら答えた。
「何か、ぽつり、ぽつり……と、広がっていますね」
「本当に……、まったく、何だろうな? これは?」
と、瑠璃光寺の言葉に、西京も怪訝な顔をした。
続いて、砲台から壇ノ浦の海峡の方のぞき込んで、“霊視”を行う。
ユーサクが、丸サングラスをかけて、
「う、う~ん……、確かにぃ〜、沸々と、沸いているのが見えるねぇ……」
「これは、源平合戦の怨念とか……、だけじゃないですよね?」
と、瑠璃光寺も、霊視しながら聞く。
「そうだねぇ〜、数多の呪い、残留思念といった類の“情報”――、“そいつら”がね、長い年月をかけて、異形なものへ変化するわけだ。まあ、“そいつら”が、怪事を起こすケースが多いんだがな。まあ、ただ、それが、人びとを驚かすといった、オバケ程度のものであれば……、まあ、まったく無害とまでは言えねぇけど、人畜無害っつうもんだがろろ」
「もし、そうであれば、取り越し苦労で済むんだよね。報告をまとめて、そのまま、少し観光して帰ればいいわけだね」
「できたら、私は、そっちのほうがいいんですけどね」
と、話すユーサクと西京に、瑠璃光寺が言う。
もしそうなれば、ただで旅行に来たようなもので、お得感もあろうが、
「だが、しかしね……? 邪神か、何らかの悪意を持った者が関わっているなら、そうは問屋がおろしてくれないだろうね」
「いや、何者かが関わっているでしょうよ? イタズラでなければ、じゃあ? 関門橋で、誰が俺に向かって発砲してきたんだーー? っつぅ、話になるし」
「まあ、それも確かにね。だけど、単純に、君が、誰かに恨みを買っていて……、そいつが、君をつけ狙っているとかじゃ、ないのか?」
「いや、まあ、恨みの一つや二つくらい、買ってる可能性はあるけどよぅ……、それにしても、だぜ?」
「まあ、そうだね……、今回は、君への恨みは除外して考えようか。もし、それならそれで、いいけどね」
「よくはないでしょ? 酷いこと言うねぇ〜、太郎ちゃん」
と、西京とユーサクは話していた。
その時、
「――う、む?」
と、ふとここで、西京が霊視している中で、“海の底のナニカ”にピンと来た。
「ん? どうしたんですか? 太郎さん」
瑠璃光寺と、続いて、
「どうしたんだい? 太郎ちゃ……、――ほう……?」
と、ピタリと固まった西京に声をかける中、ユーサクも同じく“気がついた”。
「これは……、海の中に、石(意思)が、ある――」
西京が、言った。
石と意思の、イントネーションをあわせるようにしながら。
「ああ……、確かに、石の気配だねぇ〜」
「石……、ですか?」
「うん。確かに、少し大きいけど、石の“気配”みたいなものがね、あるんだ」
と、西京は瑠璃光寺に答えながら、
「ユーサク、確か……? この下関には、不思議な石にまつわる伝承があるよな?」
「ああ。そうだねぇ……、彦島の、ペトログラフや、泳ぐ石っつぅのも、あったよねぇ」
また、霊視とともに、呪詛解析を見てみる。
すると、彦島のほうに反応があるようで、
「もしかすると、この、海の中の石と――、共鳴する“何か”が、あるかもしれない」
「ああ、確かにな」
「とりあえず、彦島に向かって、調べてみよう」
「オ~、ケェ~♪」
と、西京たち三人は、彦島に向かうことにした。
なお、そんな彼らの様子を、海峡に面した山――、火の山のほうから、
「……」
と、ジッと、眺める者の姿があったのだが……




