11 すると、日本でいうと天照大御神、エジプトだと、ラー……
また、間をおきながら、
「まあ、それはさておき……、具体的に、呪力場を、読み解いていこう」
と、西京が話を進める。
「はい。問題は、ここ最近の、呪力場の異常……、ですよね」
「うん。確かに、何か、沸々と湧くように、それらは“生じて”いるよね」
と、ふたりは、画面に映る呪力場の解析データを見た。
やや尖った形の下関と、それを凹型のようにして囲う門司、北九州側。
その狭い海峡に、下関に、まるで何か局所的な豪雨の前触れのように、赤い呪力場がぽつぽつと表示される。
それらの中で、下関の南の先端にくっついた彦島に、少し強い呪力場が生じているのに気づいて、
「この関門海峡と……、これは、島――、ですか?」
「うん。彦島だね」
「彦島、ですか――?」
「まあ、島って言っても、ほぼくっついているけどね。ちなみに、英国の首都をコンビ名にした、ある芸人がね、この出身で、ヒコットランドって名付けてたっていうウンチクがあるんだけどね」
「ヒコットランド……、ですか?」
瑠璃光寺が、いまいちピンと来ず、キョトンとする。
さらに、
「ちなみに、こんな、オカルトベースの話もあるみたいだね」
「は、い?」
と、西京は、別の資料も表示して見せる。
そこには、VR分析によって引っかかった、“何か関連されると思われる情報”が、添付されていた。
それらには、少しオカルトや陰謀論めいた、彦島の“謎的なもの”が扱われており、
「日子の島――、彦島」
「日子の島……、ですか?」
と、西京の言葉に、瑠璃光寺が聞き返した。
「まあ、『寄せる・引く』の引島からきたという説もあるけどね、日子の島――」
「……」
「つまりね? 太陽神に関係がある――と、陰謀論やオカルト的な文脈で考えてみると、そういった仮説も、立てることができるんじゃないかな?」
「そうですね。何か、そういうの、好きそうですよね。その、オカルト界隈の方たち」
と、瑠璃光寺は答えつつ、続けて
「すると、日本でいうと天照大御神、エジプトだと、ラー……でしたよね? 太陽神つながりで考えると、古代の日本と、古代エジプト王朝に、何らかのつながりがある――、と?」
「そうだね……。日本とユダヤの、日ユ道祖論っていうのがあるけど……、それと同じ感じでね、古代の、エジプト王家の末裔が流れついて……、もしかすると、その血筋が……、日本の何処かで、引きづかれているかもしれない」
「は、ぁ……」
「まあーー、そんなね、オカルト的なロマンも、想像できるかもしれないよね」
と、西京は意味深そうに続けて、
「ただ……、今回は、恐らく、そのエジプトではないけどね……、何か、シュメール語みたいな文字の書かれた巨石が――、ペトログラフが、あるみたいだね」
「ペトログラフ……、ですか?」
「うん。そこそこの数の、ペトログラフの刻まれた巨石がね、彦島と、その周辺の海底から見つかっているみたいだね」
「それが……、今回の呪詛解析と、何か関係があるんですか?」
「そうだね……? 確かに、少し、それらの巨石にも、呪力場の反応はあるみたいなんだけどね……、とりあえず、行って、調べてみてからじゃないと分からないな」
「そう、ですよね」
と、瑠璃光寺は頷いた。
画面に映る、巨石の画像――
まるで、裏山の鬱蒼としたような場所に、古代の神殿の遺跡のように佇む巨石からは、確かに、得も言われぬ何かを感じる。
「もしかすると……、この奇妙な、石がね? 僕たちを呼んで、いるのかもね」
と、西京が言った。




