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【怪石の呼び声】  作者: 山口友祐
第二章 バッドシティ下関へ

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10/40

10 負けた平家も鎮めれるし、無常観をベースにした仏教も広く人びとに根付くしで、一石二鳥的な

「プロジェクト、ですか?」

 と、瑠璃光寺が、聞き返した。

「うん。まあ、たぶん、ありそうなのは……、何て言うんだろうね? その、合戦に勝ったほうの、政権をとった源氏の、正当性というか、権威をつけるための、物語的なものかな。プロパガンダというか」

「ああ、自分たちのことは良く書いて、相手のことは悪く書くみたいな――、ですよね」

「まあ、そうだね。実際は、平清盛は、描かれているような、横暴な人物ではなかったとかね」

「すると? 平家にあらずんば人にあらずとか、言ったとか、言ってないとか?」

「うん。そういう説も、あるね……。ただ、ね? それにしては、平家物語はね、どちらかというも源氏も平氏も、それなりに公平に扱っているんだよね」

「へぇ……、じゃあ? すると、源氏の政権のプロパガンダじゃなくて、別の理由とか、ですか……? もしかして、仏教界の?」

「うん。たぶん、仏教界は、大きく関わっているんじゃないかな。その時代の、仏教界の大きな力は無視できないからね。頼朝の政権も、上手く組み入れたかったんじゃないかな」

 と、西京は、いったんここまで答える。

 一呼吸おいて、続けて、

「それからね、もうひとつは、まあこれも、仏教的なものといえば仏教的なものになるんだろうけど……、供養や、鎮魂の目的だろうね」

「供養、ですか……? ああ、その時代は、怨念とか、そういったのが、身近でしたしね」

「うん。おそらく、物語に昇華することでね、平家方の無念だったり、あるいは、恨みを鎮めるっていう意味もあったんじゃないかな? それで、残った平家方の人間も、納得というか、心の落としどころがあるというか」

「何か、アレですね、負けた平家も鎮めれるし、無常観をベースにした仏教も広く人びとに根付くしで、一石二鳥的な」 

「まあ、そうかもね」

 と、西京は答えつつ、

「とりあえずね、日本の、広域で行われた合戦であったことと、皆が共有できる物語として歌われたことからね……、この合戦と『平家物語』を経て、何か、日本人としての意識的なものを、皆が持つようになったんじゃないか――、って、説もあるね」

 と、まとめた。

 また、その流れで、小休止のように車窓を眺めてみた。

 西へ西へと、高速で流れる景色。

 それらの中には、かつて平家や源氏が戦った舞台も、あるのだろう。

 そんな、歴史の流れに思いを馳せる中、西京がパソコンを開いた。

 画面に表示されるのは、下関と関門海峡を中心にした3次元マッピング、

 そこには、呪力場と残留呪詛、残留思念の解析の様子が映し出されていた。

「わあ、すご……。もう、こんな調べてるんですね」

「さすが、松もっちゃんたちだね」

 感心する瑠璃光寺に、西京も相槌しつつ、

「これを見るに、この関門海峡には、やはり、様々な呪詛や思念が、残留しているみたいだね」

「何で、なんですかね?」

「まあ、そうだなぁ……? 海峡の流れと同じく、古来より、歴史の流れの中で、色々な人間が“通って”きたからだろうかな」

「はぁ……、何か、大河ドラマの、大河みたいなノリですか」

「うん。そうかも、しれないね」

 と、曖昧な相槌する瑠璃光寺に、西京が答える。

 まあ、歴史の流れの中で、様々な人間の往来があれば、多かれ少なかれ、何か怨恨や呪詛が生まれ得るような出来事が起きるのは、想像に難くない。

「何か、幕末の時のものも……、それから、“最近”の、戦時中のものも、残留しているな。……ああ、もちろん、壇ノ浦の合戦のものは、言うまでもなくね」

 呪詛解析を見ながら、西京が言う。

「無念のうちに散っていった兵士だけでなく、側近の尼たち……、そして、まだ幼くして入水した安徳天皇――」

「……」

 話す西京の横顔を、瑠璃光寺は見つつ、

「『海の底にも、都はありけり』と、言ったらしいけどね? いったい? どんな思いだったん、だろうね……」

「……」

 と、ただ余韻のように、無言だけ残った。

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