1 バッドシティ、イェー……?
(1)
深夜の関門海峡。
下関と門司・北九州の両岸の街の灯りに、海峡を航行する船を見下ろす関門橋。
いっときの車の流れが途絶え、少しの静寂が漂う。
そんな中、
――ブォォン!!
と、エンジン音を響かせ、一台にバイクが近づいてきた。
ぐるっと、橋の手前のカーブを走行するバイク。
丸みを帯びたフォルムの、すこしレトロな感じの、お洒落なイタリア製の機体。
すなわち、松田優作の探偵物語で知られる、ベスパP150だった。
なおかつ、乗っている男はというと、天然パーマに黒の中折れハット黒と丸サングラスにスーツ姿。
こちらも、まんま探偵物語の松田優作と同じような“いでたち”という。
男のバイクは、橋に差しかかる。
ーーグォォン――!!
と加速しながら、あろうことか! バイクは曲芸かアクロバットのように大きくジャンプし、橋を吊っているワイヤーの部分にタイヤを着地させる!
そのまま、グォーン――!! とエンジン音をけたたましくしながら、バイクは登り続ける。
そうして、主塔の頂上で止まった。
海面からの高さは、およそ140メートル。
360°、いや、スノボーの1080°のごとく、海峡をぐるりと見渡せるパノラマ世界。
すると、
「バッドシティ、イェー……?」
と、停めたバイクから降り、男はジッポでタバコをキメながら、そう言った。
男の名は、江藤優作。
対邪神、対超常現象を扱う探偵だった。
「……」
揺れる煙草とともに、江藤優作はジッ……と、海峡を眺める。
その、丸サングラスの奥には、呪力場とでもいうべきか――? “そういったもの”が可視化されるという代物。
海峡と下関側、そして彦島のほうから、沸々――と、何やら黒い不穏なものが湧いているのが見て取れる。
「……」
江藤優作の顔が、少し険しくなる。
その時、
「む、ぅッ――!?」
と、何か背筋が凍る気配がするとともに、江藤優作は反射的に身体をひねった。
空間を、切り裂いて通過する弾丸。
ーージュッ……
と、先端を掠めながら、タバコがポロリと落ちる。
同時に、少し遅れて、
――ズキューン……!
と、銃声が響いてきた。
「ちっ! 人のタバコを、」
江藤優作が舌打ちする。
まだ吸い始めたばかりの1本を台無しにされたのだから、仕方がない。
そうしながらも、銃弾の飛んできた方を振りむく。
海峡を挟んで、下関側の、火の山のシルエットが見える。
たぶん何者かが、遠距離から、おそらく挨拶でもするかのように、銃弾一発でも見まったのだろう。
それが、平家物語の、那須与一が扇を射抜いてみせたようにだったは定かでないが。
「まったく……、何じゃこりゃ?」
江藤優作は、やれやれと呆れてみせる。
再びタバコをつけたかったが、悪いことに、先ほどのが最後の1本で、切らしてしまった。
そんな、途方に暮れながら、
「……」
と、江藤優作は海峡を眺める。
そして、のちに、騒動というか怪事変が起きることになるのだが……