第8話 異世界での目覚め
場面は変わり――
「るんるんるんるん〜、って、キャーッ!」
玄関を開けたとある少女の目に入ってきたのは、うつ伏せになって倒れている少年。
「ちょっ、ちょっと、パパーー!
人が倒れてるんだけどー!!」
明らかにまずい光景に、少女はすぐ父親を呼ぶ。
「なんだなんだ。まだ営業前だぞ……!
っ!? なんだ!?」
倒れている少年を発見する父親。
「玄関開けたら、この人が倒れてて……!」
「わかった、大丈夫だ! 外傷は無いな!
すぐに客間まで運ぶ! タオルを用意してくれ!」
「う、うん……」
手際の良い父親により、ベッドへ運び込まれる少年。
運び込まれるその少年を見つめる少女は、少年の手に浮かんでいる炎のような紋章に気づく。
「あの紋章……どこかで見たような?」
**********************************************************
少年がベッドに運び込まれ数時間後――
「おい! 起きろーー! 起きろ少年!!」
ベッドで眠る少年を起こそうとするのは、先ほど少年を運んでくれた父親。
「う、うう……」
うなされる少年。
「起きろー!!!!!!」
とてつもない爆音で少年を起こそうとしている。
しっかり腹から声が出ており、並大抵の人間が出せる音量ではない。
「ちょちょちょちょ、ちょっとパパ!
ケガ人は安静させてあげないとダメだって!」
すかさず止めに入るのは先程の少女。
父親に負けず劣らずの元気な女の子だ。
「うむゥ…ジュリエッタ、しかしだな…」
「"だな" も "でも"も無いわよ!!」
「ウウム…」
少女の名前はジュリエッタ。
父親の名前はゼラニス。
そしてここで少年の目が覚める。
「うう…………」
「うおおおおお! 目覚めたか! 少年!!」
「パパうるさい!!」
「あ、あの……ここは……?」
『寝ている間もなんかうなされていたような……』と薄々記憶があった少年。その原因を速攻で理解する。
「ウム、ここは『情熱の国ヴェローナ!』」
「そしてここはヴェローナで一番おっきくて一番美味しい食堂だよ!」
腕を組み堂々した表情の父親と、自慢気に両手を広げる娘。
「ヴェローナ……。えっと、なんで俺はここに?」
「それはだな、少年! キミが!!」
「私たちのお店の前で、気を失ってたからだよ!!」
『順繰りに喋って…仲がいい親子だな…』と思う少年。
なぜ倒れていたかは思い出せない。
"グゥゥ〜"少年のお腹が鳴る。
「あ……」
「少年! もしや空腹で倒れていたのか!?」
「そうだったの!? ならちょうどいいね!
ちょっとまってて〜!!」
少女、ジュリエッタが持ってきたのはピザとパスタ。
気を取り戻したばかりの少年には少々重め。
「介抱から、食事まで、ありがとうございます」
「なに! 気にするな!腹を空かした少年を放っておいては、デイジーに怒られてしまうからな!」
「そうだよ〜! デイジー母さん怖いんだから〜!
まだまだあるからい〜っぱい食べてね!」
デイジーは少女ジュリエッタの母親にして、ゼラニスの妻。
「ありがとうございます! いただきます!」
少年は、頂いたマルゲリータピザとカルボナーラパスタを食べ始める。
マルゲリータは濃厚なトマトの味とトロトロのモッツァレラチーズがなんともいい味わい。カルボナーラも濃厚で、ベーコンと生ハムが乗っているという豪華な逸品だ。
「凄い……! 美味しいです!」
「ハハハ!そうだろう、これはな……デイジーが考えたレシピで作ったんだ」
「そう……デイジー母さん自慢のレシピよ……」
急にしおらしくなった親子。
『母、デイジーの話はいけないのか?でも自分たちで振ってるじゃないか…』と困惑する少年。
『まさか…亡くなっているのか…?』と勘ぐってしまう。
「あの……デイジーさんって?」
「ああ、デイジーはな……」
「……」
急に黙る親子。
『ヤバい! 完全に地雷を踏み抜いてしまった!』焦る少年。
と、そのとき。
「みんな〜、ただいま〜」
おっとりとした女性が入ってくる。
「あら〜? どなた?」
不思議そうに少年を見る女性。
「俺は、店の前で倒れてた所を助けて貰って」
「あら、そうなの〜! あなたたち偉いじゃない!」
女性が親子を褒める。嬉しそうな親子。
「あの、こちらの方は……?」
「ウム! こちらは私の妻のデイジーだ!
そして名乗り遅れたな! 私はゼラニス!
この食堂の料理長だ!」
「私はジュリエッタ! この食堂のウェイターよ!」
「私はデイジーです。よろしくね」
『あ、デイジーさんご存命なんだ。まあいい事なんだけど……さっきのはなんだったんだこの親子』と思う少年であった。
「……」
「おい! どうした少年!
デイジーの件は騙して悪かったな!」
「ごめんね〜、つい意地悪したくなっちゃって!」
「どういう事!?
あなた達また変なことしたわね!? こらっ!!」
『ああ、賑やかだなこの家庭。てか俺名乗ってないや……』と思った少年であった。