第7話 異能発現② -状態変化-
朝練を終えた数時間後、蘭子は学校にいた。
「であるからして、学生らしく明日からの夏休みは――」
県立第一高校、終業式。待望の夏休みを控え浮き足立つ生徒たちは、誰も校長先生の話は聞いていない。
「おい、蘭子。聞いてんのか」
「あっ、聞いてます! って、響、なによ……」
「あ、先生だと思った? っはーウケるね」
校長の話を聞いておらず、先生に注意されたのかと驚いたのが蒼都蘭子。
それを見て笑っているのが錫守響。
「なんの用よ…」
「蘭子、なんか今日ぼーっとしすぎじゃない?
どしたの?」
不思議そうに蘭子に問う響。
蘭子は真面目な顔で響に返す。
「その件で話があるからこの後体育館裏に来て」
「え、急展開すぎない? なに俺告白されるの?
キャー緊張!」
「……」
茶化した響にキレる蘭子。
「あ、ちょっと待って、冗談、冗談だからね!?」
小声で全力で謝る響。
集会中なので大きな声は出せない。
「……」
『なんでこんなやつがモテるんだ…』と、このチャラ男に蔑む目を向け、後でグーパンかましてやると覚悟を決めた蘭子だった。
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終業式後、待望の夏休みを迎えそそくさと帰宅する生徒達を後目に、体育館裏に集まる二人の男女。
「あの、蘭子さん……ごめんなさい……」
一人目は、女の子からの制裁のグーを受けた響。
「ほんとあんたらのデリカシーの無さは……。
周りに人いる時にはああいうのやめなさいよ」
「ごめんなさい、でもなんかまんざらでも……あっ」
二人目は、追加で制裁を加えようと拳を振り上げる女の子、蘭子。
「はぁ。で、本題なのだけれど」
今朝の射撃場での出来事を説明する蘭子。
「なるほど、まさか不調の原因がそれとはねぇ」
「何が起きてるのか私にも分からないの」
原因不明の異常現象に戸惑う蘭子。
響はなにやら思うところがある様子。
「響、何してるの?」
石を拾い上げる響。
「蘭子、この石を朝の銃弾と同じように強く握って。あと、猛スピードで移動させるってことをイメージをしてみて。」
「う、うん……」
急な響の指示通り、蘭子は猛スピードで移動させるイメージを持って十センチ大の石を握る。
「どう、鼓動は?」
「速くなってるわ。朝と全く一緒。」
「オーケー。そのまま向こうの木狙って石を投げて」
言われた通り投げる蘭子。
初速は時速六十キロ程度だった石は速度を上げていく。
最終的に時速二百キロは優に超えたその石は、約十メートル先の木にめり込んでいる。
「わぁお。スッゲぇ……」
普通の投擲であれば、初速が最高速で徐々に減速していく。
物理法則を無視したその動きに、空いた口がふさがらない響。
「俺、これ当てられたらお亡くなりになっちゃうよ」
「今そういう冗談に付き合えるほど余裕ないんだけど」
「ごめんごめん。そっか、蘭子もか。」
「え?」
「いいから見てて」
再び石を拾い上げる響。
「ミスターヒビキのスーパーマジックショー!」
手のひらの上の石は液体になり、手からこぼれ落ちていく。
「イェー! イリュー! ジョン!!」
「え…」
目を見開き、空いた口が塞がらない蘭子。
「あはは。びっくりした? 急だったもんね。」
「そりゃびっくりするわよ。でもこれはいったい…」
「俺はこれを異能って呼んでる。」
「異能…」
響は、蘭子が理解できる様ゆっくりと話し始める。
「俺のは触れている物質の状態変化を操れる異能。
個体を流体に、流体を個体にいろいろ変えれる。
蘭子のは触れた物体を加速させる異能かな。」
「ちょっと待って。異能もびっくりなんだけど、なんで響はそんな平気そうなの」
すんなり受け入れたどころか自分の異能も開示した響。
蘭子にしてみればこの状況が不思議でならない。
「ん〜。だって俺そんなに悲観的に考えない方だし。
知ってるだろ? 蘭子もそんな感じでいいんだよ。
もう発現してるんだから。あとは受け入れて、
自分のモノにしちゃえばいいんだよ」
『時々このアホにはハッとさせられる』と、蘭子の強ばった表情が緩む。
「……はぁ。ほんとあんたってやつは」
「おっ、やっと笑ったね〜。よかったよかった」
覚悟を決める。ナヨナヨしているのはらしくない。
「この異能、私のモノにしてやる」
「よっ!その調子!」
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学校を出て帰路に着く二人。
「私は異能を使うと鼓動が早くなるんだけど、響も異能が発現して最初はこういうのあったの?」
「副作用ね、あったよ。俺は状態変化の形態によって体温が上がったり、下がったりしてた。液体から個体の時は体温が下がる、その逆をやる時は体温が上がる。本来なら物質の変化時に起こってることを俺の体も少し請け負ってるって感じ。ちょっと寒い、暑い位の感じだけどね」
「へぇ……じゃあ私のはもしかして同じ加速が身体にも現れてる?」
「そゆことかな〜。俺にもまだよくわかんないけど、副作用は異能に慣れれば気にならないレベルまで落ち着くから鍛練あるのみ!」
「そう、ね……」
「あと、俺たちに現れたこの異能、推測だけど龍斗がいなくなった事にも関係あると思ってる。俺が最初に異能が発現したのは、龍斗がいなくなった日だからね。」
「えっ、龍斗が!?」
「だから俺は異能に慣れる練習をしながら、ずっとあいつを探してんだよね。蘭子も異能発現したんだし、探す協力してくれるよね?」
「当たり前よ!」
「よーし! じゃあまずは異能の鍛練からだ!」
「……? でもこんな異能なんての迂闊に使えないわよ。誰かに見られでもしたら」
「まあ、それは任せなさい。実は、他の人には見つからず好きなだけ異能が使える場所見つけたんだよ!」
不敵に笑う響。
蘭子はこんな表情をする時の彼を何回も見てきた。
またろくでもない事を考えている時の顔だ。
「あんた……それホントに大丈夫なところなの」
「大丈夫大丈夫! 多分この世界じゃないから!」
「なにそれ、全然大丈夫じゃないわよ!」