第6話 異能発現① -加速-
龍斗の失踪から一ヶ月半後――
『六月中旬、雅楽市に突如現れた未確認生物の多数の目撃情報から約一ヶ月半、未だに正体は掴めておらず、市民には不安が広がっています。中には、未確認生物に田畑を荒らされた、などの被害の声も聞こえています。現状、人への被害は確認されておりませんが――』
「うっひょ〜、最近のニュースは物騒だ〜。
怖いね未確認生物」
「佐藤さん、おはようございます」
「あ! ランちゃんおはよ〜。今日は?」
「百弾、二時間でお願いします」
「ハイよ〜。いつも通り好きなとこ使って」
梅雨も明け、夏本番が目の前の七月下旬、夏休みの終業式当日。
蒼都蘭子がやってきたのは、彼女の通う県立第一高校近くの射撃場。
射撃レーンこそは少ないものの、環境は整っていてキレイ。朝は大学生バイトの佐藤さんが担当している。
「そういえばランちゃん。この前の大会、途中で調子落としちゃったタイミングあったけどどうしたの〜?」
「あれは……頭痛と緊張のせいですかね」
「ランちゃんが緊張〜!?ウソ、信じらんない……」
「頭痛はすぐ治ったんですけど、その後、鼓動が異常に早くなったのと撃った弾が少し加速しているような感じがして」
「なんだろねそれ、とりあえず今は大丈夫?」
「はい、あの後は何も問題ないです。なので余計不思議で」
「そっか〜、体調悪くなったりしたら言ってね。今日はずっといるからさ!」
「はい。ありがとうございます。」
龍斗が居なくなった日から一ヶ月半が経った。
探して、探して、それでも見つからなかった。
外面は日常に戻った風を装っているが、
蘭子の時間は、あの日から止まっている。
******************************
蒼都蘭子は龍斗や響と同じ、県立第一高校の射撃部所属。
得意とするのは火薬を使って鉛玉を発射するスモールボアライフル。女子部門で全国一位に輝いたこともある。
ライフル競技は、高度な集中力を長時間持ち続けることが必要となる。蘭子には元々適正があり、その才能を見出したのは龍斗。
彼女は一見、クールな感じではあるが、別に普通の等身大の女の子。
龍斗や響に対し冷たいのは彼らがデリカシーのない事を言いまくるからである。
この前は『お前はツンツンしているからモテないんだ。もっとぷりぷりしたら良いんじゃないか!?』などと言われていた。
蘭子は『それはお前らの前だけだ。というかそんな事を年頃の女の子に言うな!』と返していた。
蘭子の言う通りであり。龍斗と響の擁護のしようは無い。
そんな事を思い出してしまった蘭子。
イライラしている自分を落ち着かせる。
「フゥ〜ッ……」
ライフルを構え、息を吐ききり、呼吸を止め五十メートル先の的に狙いを定める。狙うは直径一センチの中心。
引き金を引く前のこの時間は、的以外の物は見えず、雑念も無くなり自分だけの世界になる。
少し身体が脈打つ中、最も良いタイミングで引き金を引く。
一発撃ったら次弾の装填を行い、再び構える。
「あれ。この感覚、前も……」
異常に早い鼓動。この感覚は前にもあった。
今はこの感覚の正体を突き止める必要がある。
蘭子は迷わず引き金を引く。
「やっぱり着弾までの速度が早い。でも着弾してから鼓動は戻ってる。さっき鼓動が早くなり始めたのは弾を持ったタイミング」
蘭子は装填前に弾を握るクセがあった。
それを思い出した彼女は、銃弾に手を伸ばし軽く握る。
「やっぱり! これだ! もしかして!」
銃弾を更に強く握る。
鼓動は更に早くなっていく。
「まさか……!」
銃を装填し、構え、引き金を引く。
弾の速度はさっきより数倍速い。
着弾時の音も明らかに違う。
的の後ろにある緩衝材をも貫通し、後ろのコンクリートに着弾している。
「なんなのよこれ……」