第42話 魂との対話② -使命-
『それは……。はるか昔、いや、私にとっては最近の出来事ですね。私は紋章と炎剣を創りそこで息絶えました。その時点で私の魂は天に昇りもう二度と現世には現れないはずでした。しかし突然、私の魂はこの世に引き戻されました』
「魂を引き戻された? 一体誰がなんのために? もしかして、引き戻されたのは封印を解いたことが原因か……」
『え。炎剣が封印!?』
封印のことについて初めて聞いたようなリアクションをするセレン。
リュウトは、自分がオリバー教授から聞いた歴史についてセレンに説明する。
歴代勇者の力により魔族を全て退け、役目を終えた炎剣は五百年前に封印された事。
今になって新たに魔族が現れ、ヴェローナに危機が訪れている事。
そして、今はその封印を解いている最中という事。
黙ってそれを聞いていたセレンは複雑な表情をしている。
『そうでしたか……。ですが、封印解除は私が現世に干渉できるようになるためのきっかけに過ぎないと思います。魂を引き戻したのは、謎の人物。私は一度だけその人物と話をしました』
「謎の人物って」
『顔はよく見えませんでしたが、まとっている雰囲気はあなたに似た人物でした……。しゃべり方はもっとキザな感じでしたが』
俺に似た?どういう事だ?と不思議がるリュウト。
「それで、その謎の人物は、一体なんて」
『自分のことはアーキテクターと』
「アーキテクター、設計者?」
『謎の人物についてそれ以上は何も……。ですが、私を引き戻したのは、リュウト、あなたに使命を伝えさせるためだと言っていました』
「使命?」
『世界はすべて繋がった。それら全てに危機が訪れようとしている。全身全霊をかけ、世界を救え。それがお前らの使命だ。お前たちの日常は、その先にしか帰ってこない。と、謎の人物は言っていました。』
「……。繋がった世界を全て救うのが使命? ヴェローナと、これから行くパリアの世界の事か?」
リュウトの顔が曇り始める。
『詳細は私にも……』
セレンは首を横に振り、続けて答える。
『リュウト、あなた達にはとてつもなく大きく危険な使命が待ち受けているように思えます。それは、あなた達の命が危ぶまれてしまうほどの……。引き返すなら、きっと、今しか……』
「ええ。そうですね……。でも……。」
つい最近まで普通の高校生だった自分たちに突如与えられた、全ての世界を救うという大きな使命。そして、それに伴う命の危険。
しかし、臆して何もしないのは彼らの生き方では無い。また、リュウトにはこのヴェローナでの数日間の体験を通し、決めている覚悟がある。
「俺は、この世界に来て、色々ととんでもない体験をしたり、驚くような話に触れてきた。そしてその中には、立ち止まって今考えても仕方がない、考えるだけじゃ何も変わらないものがあった。
今回のこれも、きっとそういう事なんだろうな。
これから先、何が起こるんだろう。どんな危ないことが待ち受けているんだろう。俺は、俺の仲間は大丈夫なのかな。心配だ! って、そんなことを考えて立ち止まるのは無駄だ。
俺がこれからやらなきゃならないのは、大切なのは、何が起こるか想像もつかない世界の中で、辛いことも楽しいことも大変なことも全て受け入れて進んでいく覚悟を持つことだ。
それに、俺とランコとヒビキは昔から決めてるんだ。優しさには優しさで返す。困ってる人は助ける。これまでも、これからも、ただそれを続けていくだけだ」
リュウトは、凛とした表情でブレイザードの所へ歩き始め、ブレイザードの柄を再び強く掴む。
「……だからさ、言われなくても世界は救うよ。
俺ら三人、皆同じ気持ちだ。言葉にしなくてもわかる。
それに、俺らの日常は奪われてなんかない。
こんな、厨二病どころか小学生が考えたような世界の中で、きっと、これからも戦いは続いていくんだろうけど、俺ら三人が過ごしてるこの時間は、間違いなく俺らの日常だ」
リュウトはブレイザードを掴んだまま目を閉じる。
「自分で姿も表さない様な奴に、俺らの事を決めつけられる筋合いは無い。俺らは俺らの物語を紡いでいくよ」
『そうですか……。もう、覚悟は決まっているのですね。それを私が止めるのは野暮ですね』
伏し目がちに喋るセレン。
「心配してくれてありがとう。もし、また会えた時、元気な姿を見せれるよう、俺ら気合い入れて戦ってくよ」
リュウトの表情に迷いや恐怖、不安は無い。あるのはただ、自分たちが信じる道を突き進むという強い覚悟。
そして、リュウトは目を開き、ブレイザードを全力で引き抜く。




