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第41話 魂との対話① -王女-

 時間はほんの少しだけ巻き戻り――

ブレイザードの炎の中。


 ブレイザードの炎に包まれたリュウトは、先程のケリンの『爆発するかもな』という脅しを思い出し、咄嗟にブレイザードの柄から手を離してしまう。


「大丈夫なのかよこれ……。とりあえず早くここから出るか」


 ギヴンの影響で、熱さを感じたり、炎による火傷は一切しない体質となっているリュウトにとって包まれている炎を抜けることは訳ない。

 ブレイザードに背を向け、炎から抜けようとするリュウト。


『待って』


 一歩目を踏み出した彼を、女性らしき人物の声が呼び止める。


「え、誰だ? 女性? ランコの声じゃないな……」


 驚いた表情で後ろを振り返るリュウト。彼の目の前には、白のドレスを身にまとい、輝いている白の長髪に、透き通るような白い肌を持つ天使。背中には白い羽が四つ生えている。

 この人に合う形容詞があるとすればそれは美しいという言葉ただ一つだろうと思うリュウト。


 実体があるように見えるが、実は無く、本当に少し透き通っている。


『炎の紋章を持つ者。はじめまして。私はセレン。』

 その天使は、ゆっくりと優しい口調でリュウトに語りかける。


「はじめまして、ええっと、リュウトです。……もしかしてあなた、ブレイザードの妖精!?」

 突然の出来事に驚くリュウト。


『妖精ですか、ふふふ、あながち間違ってはいないかもしれませんね……。私は、あなたに今宿っている炎の紋章と、ここにある退魔の炎剣を創った者です』

 微笑む、天使セレン。


「え。ギヴンとブレイザードを創った!? それってまさか、あのスカイヘイヴンの王女の」


『ええ。スカイヘイヴンの王女です。……ところで、あなたが今言ったギヴンとブレイザードって、もしかして炎の紋章と退魔の炎剣の事ですか?』


「はい。そうですけど……」


『なるほど。今はそういう風に呼ばれているのですね。きっと、彼の命名ね』

 自身の創った炎の紋章と退魔の炎剣にそんな横文字カタカナの通名が付けられていることにほんのちょっとだけムスッとしているセレン。彼女の言う『彼』とは、ケリンのことである。


 セレンの表情を伺いながら喋るリュウト。

「この国の歴史書で見ました。初代勇者から受け継いだ時に炎の紋章には『炎のギヴン』、退魔の炎剣には『炎剣ブレイザード』と名付けられたと」


『そうですか……。リュウト、あなたはこの名前についてどう思いますか?』

 ちょっと語気が強くなるセレン。


「う〜ん。そんな違和感とかダサいなとかはなかったですね」


『そうですか……。このギヴンは与えられたものという意味ですね。そしてブレイザードはブレイズとソードを掛けた意味。安直です。創造主として、気に入りませんね』

 しかめっ面でストレートに怒り始めたセレン。


 先程挨拶を交わした時に抱いた美しいという印象と、オリバー教授の所で見た話の健気で優しい印象からかけ離れていてびっくりするリュウト。


 その印象はどちらも正しい。だが彼女には歴史では語られていないもうひとつの面がある。快活で実直。自分の気持ちに正直な面だ。


 王女という立場もあるので、言う場や人や弁えるが、誰であろうとダメなモノはダメ、が基本スタンスである。彼女に拾われたケリン曰く「外面は良いが、身内とかにはワガママ。こだわり強いし、悪いことしたヤツはもうしっちゃかめっちゃかだぞ」という評価。


 だが、そんな明るく正直な部分があるからこそ、彼女はスカイヘイヴンだけでなくヴェローナの国民から慕われていた。

 

 ヴェローナの歴史を残してきたケリンにとって、セレンと居れたことは全体を通していい思い出だが、その正直さピンポイントで見ると、振り回され続けたケリンにとっていい思い出の方が少なかった。その為、歴史上、セレンの事を良く書きたかったケリンは、彼女のその面を触れずにいたのである。


「ええと……今からでも名前、変えますか?」

 ランコ以外の女性については察しが良いリュウト、あの歴史と第一印象は虚構ではなく本物、だが今の彼女の怒りも本物ということに気づいていた。


『……大丈夫。きっとそれで歴史に残ってしまっているので今更という話ですね』


「う〜んと、何かすみません」

 悪くは無いが何故かいたたまれなくなって謝るリュウト。


 セレンも初対面の人にこんな態度をとってしまってまずいと思ったのか、咳払いをして気持ちと表情を切替える。

『いえ。私も大人気なく感情を出してしまいすみません。ケリンの事になると特に制御が効かなくて。そういえば、彼は今も元気にしていますか?』

 明るい表情で喋るセレン。


「ええ。とても生意気ですけど」


『そうですか……。私が生きていた頃に矯正したつもりだったんですが、戻ってしまいましたか』

 

「でも、優しいのは優しいんですけどね」

 なんで俺がフォローしないといけないんだ、と思うリュウト。


『そうなんです。彼はぶっきらぼうですがその根底には優しさがあるんです。それをわかってくれているあなたも良い人ですね』

 笑顔になるセレン。


 セレンとケリン、やっぱなにか通じあっているものがあるんだな感心するリュウト。


 そして、リュウトは最初から気になっていた事を質問する。

「ところで、セレンさん。あなたはなぜ今俺の目の前に……?」


『それは……』

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