第39話 身の上話
ブレイザードを手に入れるため、洞窟に戻るリュウトとケリン。他メンバーは洞窟外で待機している。
ヒビキは純粋な好奇心で、アーサーは歴史好きとして見逃せない、と来たがっていたが封印を解いた直後はブレイザードの力が暴発する危険性があるのでケリンがそれを棄却していた。
洞窟の奥へ向かう途中、リュウトとケリンは並んで歩きながら二人の事について会話をしている。
「素朴な疑問なんだが、なんでお前六百年も生きてられるんだ? しかも見た目は子供のままで」
「それ最初も俺に聞いてたけどよ。ホントにわかんないのか? どう考えても魔法だろ魔法」
「魔法って……。聞いた事はあるけど俺らの世界じゃそんなスタンダードに会話に出てくるようなもんじゃねーんだよ魔法なんて」
「フン……。俺は元々ヴェローナの出身じゃねぇ。五歳の頃、親にゲートに放り込まれて捨てられたんだ。小さかったこともあって自分の世界の名前は覚えてないが、こんなところより数倍も文明が発達してるところから来た」
「ゲートに捨てられたって……。マジかよ……。」
そしてハッと何かに気づくリュウト。
「まさか、あのガントレットは元いた世界の?」
「そうだ。あれは俺の元いた世界で作られた物だ。正式名称は知らん。さしずめ、俺への餞別だろうな」
「そんな大事なもの、ヒビキに渡して大丈夫なのか?」
心配になるリュウト。
「全然大丈夫だよ。俺を捨てた奴らの餞別なんかなんの愛着も無いしな。より良く使える人間が持ってた方が良いってだけだ」
「そっか……。悪いな」
「別に。俺が好きでやってんだ。まあ、そ思うなら俺の身の上話、ちょっと聞けよ」
ケリンは、そう言ったあと、一呼吸おいて自身の身の上話をし始める。
「 ……こっちの世界に来てから、俺は孤独だった。毎日毎日、ヴェローナの悪ガキども相手に喧嘩しては金品や食べ物を奪い取ったりして生きてた。だがある日それを後の初代勇者に見つかった。
まあ子供の俺が勝てる訳もなく、ボコられて速攻牢屋にぶち込まれたよ。ああ、俺の人生、どこまで行っても孤独なままかって思ってた矢先、ある女が現れた。そいつはぶっ飛んでたよ。少し会話しただけの何処の馬の骨かも分からない俺を自身の護衛にするとか言い始めやがった。喧嘩しか能がないクソガキをだ。
でも、その時から俺の人生は変わったよ。俺を護衛にした女はスカイヘイヴンの王女だった。スカイヘイヴンだけじゃなくてヴェローナ国民からも好かれていたただのお人好し。そんなやつと一緒にいると、俺も色んな人から良くして貰えた。俺は孤独じゃないってことを知れた。
でもそんな時間は直ぐに終わりを迎えるもんだ。王女は病気で死んだ。炎の紋章ギヴンとブレイザードを
遺してな。
そこから俺は初代勇者と一緒にスカイヘイヴン相手に戦った。俺のこの魔法はその戦闘の中でかけられた。千年間、俺の成長が止まるって魔法だ。
そして、俺は初代勇者が死んだあとも、歴代の勇者と共に魔族相手に戦い続けた。そして、全ての魔族を滅し、ギヴンとブレイザードがその役目を終えた時、俺の夢にあの王女が出てきた。泣きそうだけど嬉しそうな顔で俺に感謝して、さらに嫌な遺言を遺していきやがった。『勇者と、私が遺したものと寄り添ってくれてありがとう。数百年後、いつか再び危機は訪れます。もしその時、ギヴンを持つものが現れたら、寄り添ってあげてください』ってな」
ケリンは、昔を懐かしみながら、伏し目がち笑いながらどこか憂いのある表情をしている。
「なるほど、お前がまさかあの王子様と王女様と知り合いだったとはな……。その縁でブレイザードの番人になったのか」
「ああ。いくら夢とはいえ俺の恩人……に頼まれて無下に出来るわけ無いからな」
「お前も王女様には感謝してんだな」
ケリンの人となりを知れて、何やら嬉しそうなリュウト。
「ああ? そうだよ。皆まで言わせんな。ったく茶化しやがって……。もういい、忘れろ」
「ハイハイ、悪かったな」
今度は、ケリンがリュウトへ質問する。
「つーか、お前はなんでこの世界に来たんだよ。あと他の連中も含め、なんで子供になったんだ? 魔法か?」
「さあ……。俺はこっちの世界に来た時の記憶、全くないんだよ。気づいたらって感じ。子供になった理由も全然わからん。あと、ギヴンとかブレイザードとか、元いた世界でもなんか聞き覚えあったんだけど記憶が抜け落ちてるみたいに全く思い出せない。
ちなみに、ヒビキとランコはゲート通って来たらの時に子供になってたらしい。」
「なんだそれ……。ゲートを通ることが子供になる条件か……? しかも、記憶が無いって、お前の記憶を消した上でこっちの世界送り込んだ奴がいるってことだろそれ。ギヴンが現れた事といい、明らかに異質だよ」
不思議に思うケリン。
「まあ、そうだよな……。その謎も解き明かしたいけど、手がかりが全くないんだよな」
リュウトは、この件についてこっちの世界に来た当初散々考えたが現在持っている情報だけでは答えは見つからないため諦めていた。
「そういえば、パリアも変な魔女みたいなやつコンドル頭にされた上でにこっちに送り込まれたって言ってたな……」
ケリンは思い出したかのようにそう言う。
「つまり、各世界で暗躍してる奴がいる。まずはそいつを追いかけるのが手がかりになるかもな」
「ああ。だがなんか嫌な予感がするな。しかもスケールが大きいやつだ。次行くパリアの世界、注意しろよ」
「ああ。気をつけながら情報収集するよ。」
そうして、二人は洞窟の奥、ブレイザードの目の前にたどり着く。




