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第37話 前向き

 ケモノ頭たちが通ったゲートを見る七人。パリアの父親の件もあり、重苦しい雰囲気に包まれている。


「クソッ……! あのライオン頭、許さない!」

 リュウトに片腕を捕まれながら未だに激昂しているランコ。先程のヴァプラの行為、言動は彼女の逆鱗に大きく触れていた。

 正義感の強い彼女は、強い立場の者が弱い立場の者をいじめたり、暴力を振るう事を心底嫌っている。それは、人が変わる位の異常な反応を見せるほどに。


 幼なじみで付き合いの長いリュウトとヒビキでも、彼女がここまで激昂しているのを見るのは初めてだった。しかし二人はなぜランコがそこまで激昂するのか、その理由が彼女の過去の体験から来ている事を直ぐに理解していた。


 ランコは昔、彼女の父親が起こした爆発事件をきっかけにいじめられていた。

 研究員だったランコの父親は、とある研究の最中にドーム十個ほどの広大な研究所が全て更地になるほど大爆発を引き起こしたとされている。

 爆発により全てが消し炭になり跡も何も残っておらず、爆発原因は不明と結論づけられたが、数百人が犠牲となったその責任は主任研究員であったランコの父親が負うこととなった。

 当時のランコたちは中学二年生。犠牲のなった人たちの中には同級生の親もおり、ランコは犠牲者の子供から恨みを持たれる形でいじめられることになった。

 同じ学校に通っていたリュウトとヒビキはランコがいじめられるのは違う、と彼女の味方をしていたが、彼らの目のつかない所で悪口、暴力、嫌がらせを受けていた。いじめられてもなにも言い返せない、やり返せない立場の弱い人。そんな自身の経験から、ヴァプラの様な人間に対して彼女は異常な反応を見せるのであった。


「ランコ! 気持ちは分かるが落ち着け! 今ここで怒っても何も変わんねぇだろ!」

 強い口調でランコをなだめるリュウト。


「ハア……ハア……。ダメね私……。リュウト、頭冷やすために私の顔を思いっきり殴って」


「やだよ。んな事できるわけねーだろ」


「そうでもしないと落ち着けない」


「そんな事しなくても大丈夫だろ。昔のこと思い出したのか?」


「……」


「図星か。あれはもう乗り越えたはずだろ。自分で自分を落ち着かせろ」


「うるさい、リュウトがダメならヒビキに頼む」


「お前はほんとガンコだよな。ヒビキも殴るの賛成する訳ないだろ」


「そーだよ。俺にはランコはもう落ち着いてるように見えるよ」


「……」

 ムスッとした表情で黙り込むランコ。


「まあ俺もヒビキもそういう事だ。一人にしてやるから頭冷やせ」


「……」

 ランコは座り、黙り込む。


 その近くでは、ケリン、アーサー、ゼラニスがパリアと話をしていた。


「こえーな、あの女。迫真だなあ」

 ランコを遠目から見て引いているケリン。


「ケリン、僕のために怒ってくれてるんだから茶化すなら僕も怒るよ」


「あー、悪い悪い。お前を怒らせるつもりはない」


「パリア殿、さっきの連中はあなたの世界の人たちで間違いないんでしょうか?」

 アーサーが尋ねる。


「うん。最初は分からなかったけど、ヴァプラって名前でわかった。あいつらはあまりの残虐性により僕らの部族、スキトスを追い出された四人だ。コンドル頭になったし、あいつらは僕の事覚えてないだろうけど、僕は大分酷い目にあわされたから覚えてる」

 パリアは昔のことを思い出し震えている。


「ふむ。という事はあ奴らもパリアくんと同じで魔女にアニマルヘッドにされたという事かな」

 ゼラニスは優しくパリアの肩に手を添え、そう尋ねる。

 

「うん、多分……。僕と同じで身体もおっきくなってた。元々僕らの部族は成人男性でも百五十センチ位しかないんだ」


「でも、追い出された連中がなぜパリア殿の父親を奴隷に?」

 素朴な疑問をぶつけるアーサー。

 

「おいおい、これだからお坊ちゃまはダメだ見聞が足りてねぇ。んなもん復讐に決まってんだろ。虐げられた者がそれを数倍にして返したってわけだ。おそらくパリアの父親以外も相当数奴隷になってるんじゃないのか?」

 ヤレヤレ顔で少し語気強めに言うケリン。

たしかに、虐げられた側になったことは無いな、とアーサーは少し反省ししょんぼりしている。

 

「僕もそうだと思う。お父さんにお母さん、そしてみんなも心配だよ……。」


「あと、一つ思ったんだけどよ。父親が言ってた十年ぶりって言葉、あれ本当なら大分まずいんじゃないのか?」


 そこで、ヒビキとリュウトがパリア、ケリンたちの会話に参加してくる。


「それは俺も気になってたんだ。パリアはこっちの世界に来て三ヶ月。なのにあっちの世界では十年。四十倍だぞ、四十倍。時間の流れが違いすぎるだろ」

 身振り手振りで話すヒビキ。


「早く助けに行かないとパリアの父親が危ないな」

 サラッと言うリュウト。


「うん……。でも僕じゃみんなを助けられない」

 パリアは俯いてしまう。


「おいパリア。お前三ヶ月ただ俺のお手伝いしてただけじゃないだろ。身体の使い方とか教えてやっただろうが」


「でも……」


「ウジウジすんな! お前が人間の時のことは知らんが、今の魔法をかけられたお前の肉体は強い。すぐ弱気になるし、人の事思いっきり殴れないし、コンドル頭のくせにコンドル要素何も使えないけど強いんだ。本気になれ。今頑張らないと一生後悔する羽目になるぞ」


「ケリン……。ありがとう。僕、頑張るよ」


「そうだ、まずは前向きに生きろ。人を思いやれて行動できる。お前は幸せになっていい人間だ。それに心配するな。お前の家族を救うのはくそガキ三人も同行する」


「「は?」」

 突然の話に驚くリュウトとヒビキ。


「あ? 向こうでしょげながらこっち睨んでる女も、お前ら二人も、助けに行く気満々なの顔に出てるぞ」


「え! みんな協力してくれるの!?」

 パリアの表情が晴れる。そしてリュウトとヒビキに熱い眼差しを向ける。

 元より助けに行くつもりであったが、その眼差しにより行かないとは尚更言えないと思う二人であった。


「まあ……」

「そのつもりだったけど……。ヴェローナの時間軸でスカイヘイヴンとの全面戦争まで残り二日と半日。そしてあっちの世界で流れる時間は四十倍。つまり、向こうでの時間経過で百日以内に戻ってくれば全面戦争には間に合う」


「ちょうどいいだろ。今のお前らじゃどうせルシフルには勝てない」


「なんでそう決めつけんだよ」


「歴史の勉強が足りてねぇな。初代勇者は知ってるな。ギヴンとブレイザードを使って魔族と戦ってやつだ。そいつが戦った魔族、それを最終的に統治してたのはルシフルなんだよ」


「えっ、マジか」


「ええっ!? そんなの歴史文献に一切残っていませんよ!?」

 新しい事実に驚いているアーサー。


「んまあそりゃそうだろうな、俺元々文献とか書くのガラじゃねぇんだ。スカイヘイヴンの王女に頼まれて、ヴェローナの王子との話は割としっかり書いたが、それ以外は適当もいいところだったからな」


「ん? パリア殿、言っている意味が……」


「だから、今ヴェローナに残ってる文献は基本俺が書いたんだよ。俺の書いたやつを元に絵本とかも描かれたみたいだけどな」


 衝撃の事実、歴史の生き証人を目の前に固まるアーサー。歴史学者(助手)としてこの上ない出来事であった。

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